2020年5月25日
コロナリスクをヘッジするために金が買われていることは言うまでもありません。
一方でコロナゆえ売られる金もあるのです。
経済危機が極限に達すると人々はとにかく現金を選好するからです。世界の金買い取り店では、明日の糊口を凌ぐために、母から譲り受けた思い出の金のネックレスを泣く泣く売るというような悲惨な事例が頻繁に見られるのです。
日本でも従来は古いデザインゆえ「箪笥の肥やし」となった金のネックレスを売れば、幾ばくかのお小遣い稼ぎになるという軽い気分で金製品を貴金属店に持ち込む事例がここ数年急増していました。
しかしコロナ危機が勃発してからは、もっと切羽詰まった金製品の買い取り事例が見られるようになっています。特に小規模店舗などの自営業では、とにかく現金での売り上げが「蒸発」しましたから、売れるものは何でも売って現金に換えるほどに追い込まれているわけです。
思い起こせばギリシャ危機の際にアテネを訪問した時、郊外の地下鉄の駅を降りると必ず「金買い取り店」が2、3店あったものです。当時のギリシャでは数少ない「成長産業」でした。
その頃に比較して、現在は世界的に金買い取りのインフラが飛躍的に拡大されています。
金需給統計を見ても、価格が急騰した年には年間金リサイクル量が急増しています。
例えば、2012年の年間金平均価格は1668ドルでしたが、同年の年間金還流量(二次的供給源)は1701トン。それが2015年には年間平均金価格1160ドル、年間金還流量は1173トンに激減しています。
ざっくり言って、価格が1500ドルを超えると金リサイクル量は級数的に増える傾向があります。
今年前半はロックダウンで金リサイクルの流れも止まりました。しかし今年後半に経済再開が進むと、これまで金製品を売りたくても売れなかった人たちが待ちかねたかのように来店する可能性があります。
このような需給要因は、日々のマーケットレポートに載るような量ではないので目につきません。しかし通年で見ると1000トン以上の量に膨れ上がっているのです。その影響はボディーブローのようにジワリと効くものです。派手さがないので軽視されがちですが、筆者が今年の上値を控えめに見ている理由がここにあるのです。
アテネの金買い取り店