豊島逸夫の手帖

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金2000ドル寸前に急落、中国金投資規制も

2020年7月31日

米国4~6月期32.9%という衝撃的数字発表でダウは一時500超急落。失業保険申請も増加。経済悪化を映す米国債利回りが軒並み史上最低水準に沈む。外為市場ではドル安に歯止めかからず。ドルインデックス93の大台を割り込む。トランプ氏の大統領選挙延期ツイートも米国、そして米ドルへの信認を低下させる。そこで買われるはずの金も急落。1937ドルから1967ドルのレンジで乱高下。紆余曲折あったがスポットは1960ドル近くで推移中。さすがに利益確定の売り、更に換金売りが重なり下げ圧力がかかった。アジア時間帯で下げ、NY市場で持ち直す。

中国が銀行の金投資口座新規開設を禁じるなど金投資(と言うより金投機)規制に動いた。中国国内の過剰流動性が金や不動産市場で暴れることを中国当局は嫌う。中国人が金を買いまくる(爆買い)ことは、中国人民銀行の視点では人民元に対する不信任票とも解釈される。大袈裟に言えば全体主義国家では党長老から国家への反逆ともされかねない。そもそも中国が段階的な金自由化に動いたのも、過剰流動性が不動産市場でバブルを引き起こすことを嫌い、金なら中国人は長期保有するであろうとの目論見があった。上海での国際金会議で人民銀行局長がそのような論旨の講演をしたものだ。ところが博打好きの中国人個人投資家の中には上海先物市場に上場されている金先物売買などで投機的行動に走る人たちも増えた。当局の目論見に反する展開に危機感を強め金投資規制に踏み切ったわけだ。なお金規制は中国で珍しくない。外国為替管理局の判断で随時民間商業銀行には「行政指導」が発出される。人民元同様に恣意的に介入しているわけだ。ドル建て金を中国人が買いまくることはドル流出、外貨準備減少も招きかねない。筆者も大手中国銀行のアドバイザリーとして上海にある貴金属部トップの目が常に北京監督当局に向いていることを見てきた。なお今なぜ規制ということだが、足元でアジア時間帯で国際金価格が大きく乱高下しており、中国系ヘッジファンド関与も露わなので、お灸をすえた感がある。原油のマイナス価格騒動が金市場でも起こりかねないとの当局の「杞憂」も透ける。

この規制により国際金価格が大きく動くことはないが、市場の地合いが過熱感で金買いに走ったヘッジファンドが出口を模索しているので、格好の売り口実になった感は否めない。

2000ドル寸前。市場の緊張感は増幅している。調整らしい調整もなくここまで来たので筆者は警鐘を発してきたが、それが現実になったものの未だ市場の上昇モメンタムは基本的に衰えない。「理性なき高揚」に沸いた市場に若干の理性が戻った程度の話である。

2020年