豊島逸夫の手帖

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金一時1700ドル突破、なぜ週明けが狙われたのか

2020年3月9日


先週金曜日のNY株式市場は引けにかけダウ平均が500ドルほど反騰して終わり、市場内には売り一服感が漂っていた。
しかし週末にイタリアで1600万人対象となるミラノ・ヴェネチア地域封鎖が発表。米国内ではウイルス検査体制がようやく本格稼働を始め、今週は感染者数が級数的に増える可能性が指摘されていた。


そこにサウジとロシアが減産を巡り決裂して、サウジは増産且つ異例の20%販売価格ディスカウントという値引き競争に打って出た。
この展開を見て、原油投機筋はアジア月曜早朝の取引が薄い時間帯に売り攻撃を仕掛けた。原油市場はドッドフランク法の影響で原油取引部門が縮小され、ただでさえ流動性が薄くなっている。

WTI原油は時間外で30%以上という急落となった。

30ドルという水準は米国シェール生産者も到底受け入れられる水準ではない。シェール関連のハイイールド債が危うい。コロナウイルスの国内急拡大が危惧されている米国の経済に新たなクレジットリスクが生じる。安全資産の米国債へのマネーシフトも米10年債利回りも下落が加速する。ドル金利が下がればドルが売られ円高が進行する。日経平均は下がる。ダウ平均も時間外で1000ドル超の下げとなった。


かくしてコロナショックとオイルショックの共振現象が月曜朝の市場大変動を招き、安全資産としての金買いを誘発した。1700ドルの大台を突破する場面もあったが、その後1680ドル台に反落している。今回は円高が進行しているので円建て金価格の変動は限定的だ。


マクロ視点では米中経済共倒れリスクが懸念されている。
米中通商協議「第一段階」が合意されたが、その後2月の米国製造業統計に目立った改善は見られない。そこにこれからコロナウイルスの影響が加わる。20年前半に米国経済ゼロ成長の見通しなども出始めた。


中国経済も週末に輸出急減を示す統計が発表された。ここでも米中貿易戦争とコロナウイルスの経済的共振現象が危惧される。通商協議については果たして第一段階合意を実行できるのだろうか。フォースマジュール(不可抗力宣言)の可能性も取りざたされる。しかしこれは大統領選挙真っただ中のトランプ大統領が容易に合意できる案件ではない。
中国は今後なりふり構わぬ政策総動員で難局を乗り越える構えだ。


しかしインフラ工事にしても、労働者が本格的に戻り部品のサプライチェーンは構築されるのか。これまでの財政出動の常套手段だけでは実効性も覚束ない。金融政策のバルブを緩めれば過剰流動性が不動産市場などに流入するリスクがある。


一方、米国はFRB金融政策の限界が指摘される。財政政策は「大統領選挙」「ねじれ議会」が絡み合い合意が容易ではない。
米中経済共倒れで最も影響を受けやすいのは日本経済だ。
本日の市場大波乱は、このような経済の展開を先取りした動きに見える。まだ予告編に過ぎないかもしれない。


さて、先日テレ東で対談した西野志海キャスター。NY転勤でモーニングサテライトのNYキャスターに。ところが赴任のためNY到着直後、なんと、なんと「自主隔離」の洗礼。テレビでは「(NYでは)外国人一人ということで、とても不安です。」と語っていた。いやはや、今時うっかり海外に出ると相手国で14日間、帰国したら更に14日間隔離ということも十分ありうる。西野キャスターにはめげずに頑張って欲しい。ほとんど娘を気遣う父の気持ちだけど(苦笑)。


これがその番組動画↓2月29日OA。


https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00070/030300029/

2020年