豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 金急騰の背景に歴史的金融・財政の変化
Page3001

金急騰の背景に歴史的金融・財政の変化

2020年4月10日

驚いた。
9日FRBは2.3兆ドルもの緊急流動性供給プログラムを発表した。株も金も同時に急騰。金のスポット価格は1700ドル台に最接近中だ。報道では先物価格が一足先に1700ドル突破と囃されている。

市場の関心はFRB発表の総額もさることながら、内訳に集中している。
まずコロナショックで虫の息の民間企業向け民間銀行経由の企業融資をFRB傘下の特別会社が買い取る。もし貸し倒れリスク等が生じれば財務省が損失を補填する。要は民間銀行にどんどんカネを貸してやれ。その結果生じた企業向け債権はFRBが全額買い取ってあげるから心配するな。FRBがそう大胆に言えるのは、損が出ても財務省が補填してくれるからだ。

かくして中央銀行が不良債権を抱えることで米ドルの信用が損なわれることもなくコロナ禍で瀕死の企業を広範囲に支援できる。
「ヘリコプターマネー」の制度化である。
中央銀行と財務省のバランスシート「連結」の始まりとも映る。
中央銀行は「政治的独立性」に関する議論から解放されるかもしれない。

これは歴史的な変化だ。
これまでタブーとされてきたことが「ウイルスとの戦争」に勝つための「戦時対応」として正当化された。コロナウイルスによる経済大波乱は長期的視点で「一過性」としても、中央銀行と財務省の一体化は「新常態」となる可能性が今や無視できない。

更なる驚きは中央銀行FRBが買い取る債券に、ジャンク債やハイイールド債という「かなりヤバい」債券も含めたことだ。
財務省の後ろ盾があればこそ、中央銀行たるFRBもハイイールド債やジャンク債にまで買い取り対象を拡大できる。市場では既にジャンク債ETF価格が急上昇している。

結果的にゾンビー企業にも生き残りの道が開けた。
おカネを借りまくっても財務省・中央銀行連合軍に救済してもらえる。
壮大なモラルハザードが醸成されよう。
こうなると極論だが、企業がとりあえず社債を発行すれば、どんな企業でも資金調達ができてしまう。
これはどう見てもおかしい。
そこで独自の価値を持つ「金」の出番がまたもや廻ってきた。

まずはコロナウイルスの封じ込め。そして混乱した経済の終息。後者は金融システムのパラダイムシフトとなる可能性が出てきた。信用に基づく経済制度が揺らいでいる。だから金本位制復帰という話にはならない。但し、外貨準備の中の金の割合を増やすなど公的部門で金を取り込む動きが更に加速しそうだ。機関投資家の間でもパラダイムシフトへの対応として金保有が注目されつつある。

それゆえ1600ドル台の高値圏にも関わらず、昨日は50ドルほど急騰したのだ。円建てでも急騰。最近はこの程度の価格変動では驚かないが。この現象の裏に潜む経済の動きをまずは理解しておいて欲しい。

2020年