2020年10月19日
「秋のウイルス第二波」はかねてから市場内で波乱要因と意識されてきた。しかし欧米感染者急増のタイミングが大統領選2週間前というリスクシナリオまでは織り込まれていなかった。海千山千のヘッジファンドのツワモノたちも今回ばかりは待ちの姿勢に徹している。米IT銘柄急騰の恩恵を受け一定のリターンは確保している。ここで敢えて冒険してもリスクに見合う追加的リターンは期待薄だ。
NY市場内でも支持率劣勢で焦るトランプ大統領の言動は「常軌を逸している」と受け止められている。「感染した人たちの85%はマスクをしていた。」と極めて根拠が疑わしい統計数字を引用。コロナ対策での失点から議論をそらす意図が露骨に透ける。共和党内部での造反も顕在化してきた。ベン・サス上院議員(ネブラスカ州)はコロナ対策の初期誤作動が民主党大統領・議会選圧勝の「ブルーツナミ」を招くと非難を強めている。クリス・クリスティー前ニュージャージー州知事(共和党)はコロナ陽性となり1週間ほど集中治療室に入った後回復。「マスクをしていなかったことを反省している。」と告白した。大統領側近としてクラスターを招いたとされるホワイトハウス庭内でのイベントにも第三列に座り参加していたことが報道写真で確認されている。「第三列まではウイルス検査済」と事前に告げられたとのことだが本人も検査を受けていなかった。更にその問題の最高裁新女性判事候補イベントの前に検査を受けたか否か「バイデン氏と同時刻開催の対話集会」で司会者から聞かれたトランプ大統領は「検査したかもしれない、しなかったかもしれない。」と答えた。更に突っ込まれると「大統領はホワイトハウスの一室に籠っていては務まらないのだ。」と声を荒げ話題をそらせている。
対するバイデン氏の同時刻集会での発言にも市場はざわめいた。
「トランプ氏はウイルスの実態を明らかにせず楽観論ばかり述べてきた。実態を語ると株価が急落するからだ。彼は株価ばかりを気にしている。」
マーケットも本音では次期大統領に株価への配慮も怠って欲しくない。バイデン氏はかねてから「株価」や「マーケット」から距離を置く姿勢を表明してきたが、対話集会でも明確に表現されると市場の思いも複雑になる。
そもそも法人税21%から28%への引き上げや株売買益に対する39%ほどの課税からなる「バイデン増税」が市場内ではリスク視されてきた。とは言え予想されるインフラ投資の額が共和党より民主党の方が大きいので、増税のマイナス経済効果も相殺されるとの読みが直近では高まってきた矢先のことだった。それだけにバイデン候補がウォール街を敵視する民主党内左派へ配慮を見せたことには身構えざるを得ないのだ。
特に商品市場のトレーダーたちはハラハラして見守っている。大手投資銀行の自己勘定原油売買を規制するドッドフランク法(金融改革法)はトランプ政権下で規制緩和され、解雇されたトレーダーが再雇用されるなどの事例が見られた。しかしバイデン政権となれば再び締め付けが厳しくなりそうだ。
なお、足元で市場の最大関心事は対コロナ追加財政支援案の行方だ。一時は凍結を指示したトランプ氏も第二波による経済復興の遅れを意識して総論支持に転じている。総額2.2兆ドルの民主党案に対して1.8兆ドルまで共和党は歩み寄った。週末にはペロシ下院議長も「48時間以内に合意の可能性」を示唆した。しかし交渉相手のムニューシン財務長官は中東出張中である。まだ溝は深い。市場内では年内合意を諦めるムードも漂う中、16日金曜日のダウ平均は大引け直前に、週末を控えたポジション調整と見られる売りに見舞われ、上げ幅を急速に縮小。かろうじて前日比では112ドル高で引けたとの印象が残る。金は1900ドルの大台攻防。
大統領選挙の郵便投票の不備も実例として出始めた。選挙結果の有効性が問われ長期化するリスクシナリオも「ブルーツナミ」予測の下で若干下火になっていた。しかし多少なりとも現実味を帯びると市場が最も嫌う「不透明感」が強まる。恐怖指数とされるVIXも27台と危機的水準とされる30の大台目前の水準で高止まり気味だ。
NY市場の視点ではコロナ感染者増加州が大統領選挙激戦州と重なる傾向も注目されている。実例としては北カロライナ州などの名前が挙がる。同州でのバイデン候補のリードを3%台とする世論調査結果もある。
かくして異例の展開は今週も続きそうだ。