豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 米コロナ追加財政支援、期限切れ、延長戦入り
Page3125

米コロナ追加財政支援、期限切れ、延長戦入り

2020年10月21日

欧米コロナ「秋冬の波」が深刻化する中で米国の追加財政支援の重要性が高まり、先週来NY市場の最大変動要因となっているので、本欄でも連日この話題にフォーカスせざるを得ない。内心、食傷気味ではあるが(苦笑)。要人発言が楽観と悲観の間で振れ、市場を揺らす日々が続いている。

日本時間中に新たな展開があると東京市場にも直接的影響をもたらす。

米議会では2.2兆ドルの民主党案に対し、財政支出に慎重な共和党は1.88兆ドルまで歩み寄ってきた。しかし最後の差が埋まらない。民主党を代表するペロシ下院議長は週末に「48時間以内に決着」との目標を明示したが、その期限にあたる火曜日にも遂に合意には至らなかった。

既に支持率でリードを広げた民主党側は大統領選挙前に決着せずとも形勢は変わらずと読み強気の姿勢だ。対する共和党も劣勢の中、大統領選挙直前に民主党と妥協の姿勢を見せることには抵抗がある。両党とも選挙前決裂の場合に備え相手方への責任転嫁の論法に関心が向いている。

市場内では2兆ドル規模の包括的追加支援策が選挙前に合意するシナリオは非現実的と見ている。しかし部分的合意ならば可能と読み既に織り込みつつある。20日のダウ平均も113ドル上昇した。とは言え一時は400ドル超急騰する局面もあったので期待感も限定的と言える。金は引き続き1900ドル台で漂流中。引け後にメドウズホワイトハウス報道官がテレビ生出演で「交渉継続」を語ったことで、期限切れでも「延長戦入り」と受け止められている。

なお、部分的合意案の事例としては共和党が過半数を占める上院で6500億ドル規模の部分的緊急支援策が議論される予定だ。既に期限切れとなった中小企業の給与支払いを援助するPPP、失業保険給付上乗せ、そして再開する学校への支援などが骨子となっている。失業保険上乗せの第一弾は週600ドル積み増しであったが今回は300ドルになっている。失業保険給付額がコロナ前収入を上回る事例が問題化したからだ。

この案に対してペロシ下院議長はあくまで包括的支援案を固持している。更に同氏はひっ迫する地方自治体への財政支援やウイルス検査・追跡調査の支出も譲れない一線と論じている。

一方トランプ大統領は選挙前の起死回生を視野に民主党案を上回る規模の包括的支援案を提唱しているが、共和党内には巨額の財政支出を渋る意見が根強い。「トランプ氏の最後の賭け」とも評されるが市場は「最後のあがき」と受け止めている。

かくしてマーケットでは足元で政争に翻弄されつつ、民主党が大統領選挙と議会両院選挙を制する「ブルーウエーブ=青い波」シナリオの先取りも始めている。バイデン増税リスクより「共和党より規模の大きな」インフラ投資が見込まれることを重視している。インフラ投資は即効性があるが増税は段階的導入となる可能性もあるからだ。

但し無視できない2つのリスクがある。
まず郵便投票混乱による大統領選挙の長期化の可能性。
そしてバイデン氏が勝利した場合1月20日の大統領就任日まで「空白」が生じること。その間コロナ感染「冬の波」が急拡散した場合の対応が危ぶまれる。

当初は大統領選挙が終われば「材料出尽くし」となるかとも思ったが「混とん」も視野に市場は身構えている。

2020年