豊島逸夫の手帖

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米中「休戦」合意、中国側の本音は?

2020年1月17日

今回のトランプ大統領曰くところの「歴史的合意」について中国側の反応を注意深く見守ってきた。筆者が中国の銀行のアドバイザリーを務めたときに構築した公的・私的ネットワークを通じて中国側の本音も探った。

まず総じて抑えた歓迎論が目立つ。

「竜の目玉は小さい」中国では下の写真の如く祝賀式典で作り物の達磨ならぬ竜の目玉を墨で入れるので、このような表現になる。

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決裂=更なる追加関税という最悪のシナリオは回避できた。第二段階が大統領選挙後までずれ込むは必至。次期大統領が決まるまで待つ余裕を得た。米中通商協議も野球に例えればまだ一回表裏攻撃中のゲーム中断。もとよりハイテク産業への国家的支援などは絶対に譲れない。今回の合意文書も「精神条項」をあちこちに入れ込み、その解釈は自分たちの解釈次第。そもそも外交的な「合規」(コンプライアンス)意識は希薄な国だ。

政府系メディアに載る写真はトランプ大統領と劉鶴副首相が合意文書を持ち並ぶ姿。これは中国としては異例の組み合わせだ。「歴史的合意」ならばトランプ大統領と格落ちの自国代表が署名することなどあり得ない。中国側が本気であれば習近平氏不在の署名式写真をメディアに流すはずもない。本音は格落ちの自国代表で済ませたことで、してやったりということか。

課題の「2000億ドル米国から輸入増」という数値目標もトップダウンで政治的判断により応じたとの解釈が語られる。エネルギー・工業製品・農畜産物などセクター別の需給動向までは詳細に検討されていないことは明らかだ。まずは購入プランの作成だが、その段階で新たに設立される「仲裁機関」で議論が長引く可能性がある。

そこで筆者が思い出すのは上海での金取引所トップにコモディティー需給について「ご進講」を依頼された時のことだ。相手の理事長は共産党への貢献度が高く、報償人事で天下った人物。マーケット感覚は殆ど持ち合わせていない。「商品は生産者の売りで価格が下がるのだが」と語り出したところでいきなり「待った」がかかった。「売りで下がって困るのならば売らせなければよいのではないか」。「売られれば下がる」、「売らせなければ下がらない」。議論が堂々巡りで一向に進まなかった。

次元は異なるが、今回の米製品輸入問題にしても、需給を無視した官製の発想があればこそ「同床異夢」で合意に至ったのではないか。

無理やり米国製品を押し付けられても、そもそも「有効需要」が創出できるのかとの疑問も現地金融関係者の間では根強い。中国経済への危機感が共有されている。一例だが、国営大手銀行は過剰債務を抱えた地方政府が発行した地方債引き受けを「指導」されている。しかし同時に不良債権問題の改善も「指示」されている。さすがに引き受けを渋る国営銀行に対し、地方債を「適格担保」にするという「甘味剤」を提示されたとぼやく声が聞こえる。

「知的財産権保護」、「外国技術の強制移転」問題に関しても、これを厳しく取り締まれば、今の中国経済で最も脆弱な中小企業の多くが行き詰まるは明らかだ。「コピー商品」は「外国製品により発想を鼓舞された商品」であり、「強制移転した外国技術」は「企業行動により獲得した技術」と考える風潮を変えることは容易ではない。

一方、米中貿易協議に振り回されたNY市場では、とにかく「休戦」で「安堵相場」となり、株価は最高値を更新している。決算シーズンに入り大手金融機関モルガンスタンレーが絶好調の決算を出せば、一日で8%も同社株価が急騰するまで買いまくる。台湾の半導体大手TSMCの好決算は半導体関連の買い物色を誘発する。米中貿易「休戦」合意文書の危うさが指摘されても、パウエルFRB議長が緩和継続のお墨付きを与えているので買いが先行する。

「中国に逆らってもFEDには逆らうな」

米中の認識ギャップは埋まりそうにない。

因みに中国の民間投資用金商品の流通は大手銀行が主体だ。筆者は銀行内の貴金属部立ち上げの段階からアドバイザーとなった。売れ筋は「純金積立」。一銀行の口座数が3億を超えるのでアッという間に販売が急増した。もとより文化的金選好度の高い漢民族だ。銀行の貴金属部も各部門のエース級が集まった集団。経営戦略の中核に位置付けられる。金販売専門の支店(下の写真)まで設立されたほどだ。その支店の看板には「銀行」ならぬ「金行」の名前があった。

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2020年