豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 異例の米大統領候補、同時対話集会
Page3122

異例の米大統領候補、同時対話集会

2020年10月16日

今朝はトランプ候補とバイデン候補が、それぞれ米NBCとABCの全米テレビネットワークで同時刻に市民との対話集会に生出演するという珍しい形式の討論会があった。見る方も大変だった。二つのスクリーンを並べて両方同時に視聴したからだ。

トランプ氏はマスク無しの集会を退院復帰後も再開しているので、当然のことながらウイルスまき散らしリスクを問われる。相変わらずトランプ氏は「感染した人の85%はマスクしていた」など怪しげな根拠の自説を展開していた。なお、側近のクリス・クリスティー前ニュージャージー州知事(共和党)が陽性になり「マスクしなかったことを反省している」と告白したことも話題になっている。1週間集中治療室に入ったほど重症化してかなり懲りたようだ。ホワイトハウスで開催された最高裁新女性判事候補を紹介するイベントで、参加者がマスク無しでハグしたり相互距離を無視した行動をとっていたことが現場写真でも明らかになっている。クリスティー氏も招かれて3列目に居たそうだが「3列目までは全員ウイルス検査を受けているから大丈夫と言われた」そうだ。その本人は検査を受けずに出席していたというからお粗末。いずれにせよ、そのイベントがスーパースプレッダー(急速に感染拡大を引き起こす要因)となったことは間違いない。しかし当のトランプ氏はそのイベント前日に検査を受けたかとの質問に「記憶にない」と明確な答弁を避けていた。「検査したかもしれない。しなかったかもしれない。君!大統領職はホワイトハウスの一室に籠っていては務まらないのだよ!」とまるで答えにならない。今や欧州で大きな第二波が起こり、米国内でも寒くなって再拡散しつつあるのに、とにかく大統領選挙運動のことしか頭にない様子。

対するバイデン氏は淡々とトランプ批判を繰り返す。
「トランプ候補はウイルスの実態を明らかにせず、楽観論ばかり述べてきた。実態を語ると株価が暴落するからだ。彼は株価ばかり気にしている。」などと語っていた。

マーケットの関心はバイデン増税案だ。法人税21%から28%へ増税、株式売買益には39%の課税。但し年収40万ドル(4千万円ほど)以下の個人には増税はしない。要は中間層に厚く所得の再配分という発想なのだが、株には売り材料になる。それで金が買われるか売られるか、蓋を開けてみないと分からない情勢なので悩ましい。

基本的にトランプ氏の方がマーケットには味方になるので、市場関係者の心理も複雑である。奥さんはアンチトランプだが旦那さんは隠れトランプ支持というようなNYの家庭も少なくない。

対話集会ではトランプ支持者、バイデン支持者そして未決定層とそれぞれの代表が質問に立った。トランプ支持者からはトランプ氏が登壇すると拍手が沸いていた。まさに分断社会である。選挙結果も世論調査ではバイデン氏有利だが、まだまだ蓋を開けてみないと分からないと感じた次第。更にそれで金が上がるか下がるかも、当日になってみないと分からない。特に接戦になった場合にはトランプ氏が選挙結果にイチャモンつけてホワイトハウスに居座るシナリオも、今日の対話集会を見ていると無視できないと痛感した。既にトランプ氏は事前郵便投票で自分への支持票の多くが「廃棄されている」とゴネ始めているのだ。

この週末も新たな展開があるかもしれず、特に乱発されるトランプツイートから目が離せない。

2020年