豊島逸夫の手帖

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2021年金価格を占う勘所

2020年12月23日

今日は専門的な話をします。

今年、国際金価格高騰の最大理由は「米10年債のマイナスイールド(利回り)現象」です。分かりやすく言えば、米国人投資家が米国10年国債を購入・保有しても、得られる名目利回りが物価上昇に追い付かず、目減りしてしまうことです。金利を生まない金にとって、これは追い風。下のグラフ(セントルイス連銀出典)は、2020年に入ってイールドがマイナス圏に下がっていることを示しています。金価格高騰を理解する上で重要なグラフです。2021年もこの状況は続きます。

米国10年債、実質利回りの推移3168_chart oriiginal_2.jpg

マイナスイールドの数字は国債の名目イールドから物価上昇率(コアインフレ率)を差し引いたものです。TIPSと呼ばれる米国物価連動国債の利回りと普通の国債の利回りとの差にも大筋相当します。

なぜマイナスイールドになったのでしょう。
まず、FRBのゼロ金利政策。FOMCでは少なくとも2023年、私の理解では2024年までゼロ金利を続けることを明言しています。ゆえに名目で歴史的超低金利現象は2021年も継続です。
パウエルFRB議長は2023年まで金価格が大幅に下がることはないことにお墨付きを与えているに等しいわけです。

なお、欧州と日本では名目でもマイナス金利となっています。これは非常に分かりやすいところですね。
米国は少なくとも名目マイナス金利という異常状態だけは、かろうじて回避しているわけです。米10年債利回りは直近でプラス0.9%台です。コロナ不況でも物価は年率1%以上上昇しているので、結果的にマイナス実質イールド或いはマイナス実質金利ということになります。

次の勘所は財政大盤振る舞い。米国では既に4兆ドル規模で未曽有の財政支援に動いています。バイデン政権は更にクリーンエネルギー関連などで兆ドル単位の財政支出に動くでしょう。コロナ前は財政赤字が1兆ドルを超えたと大騒ぎしていたのが、今になっては懐かしい。異次元の財政赤字膨張です。しかしこればかりはコロナという有事対応ですから止むを得ません。正当化されます。

問題は2021年後半。(願わくば)首尾よくワクチン接種が広まり、経済が本格回復の道を歩み始めても、国の借金は消えずに残ること。おそらく来年後半にはバイデン増税が議論され、米国債務上限問題が再浮上して、米国債格下げ或いはデフォルト懸念が顕在化すると私は見ています。思えばリーマンショック後に金価格が史上最高値に至るまで急騰したことも米国債格下げが発端でした。

では、金価格が下がることはないのでしょうか。
あります。
景気が良くなって金利が自然に上昇してゆくケースです。既にワクチン開発進展により、米10年債名目利回りは歴史的低水準とは言え0.5%台から0.9%台まで上がってきました。ゼロ金利時代では、これでも債券市場では「金利急騰!!」と騒がれるのです。これがもし1.5%などの水準まで上昇すれば、金価格の頭を抑えるでしょう。

但し、ただしです。これが2%、3%と急騰するようになると、一転、金には買い要因になります。米国債の格下げ・デフォルトを懸念して、米国債の買い手が引っ込んでしまうケースだからです。ギリシャ危機の時にギリシャ国債の利回りが年率30%以上に跳ね上がり、それでも買い手がつかなかったことが思い出されます。

或いは、来年後半にコロナから解放され、本当に景気が本格回復して、FRBがもはや金融緩和は必要ない、ゼロ金利政策も停止と政策転換するケースも確率は低いですが考えられます。

要は、金はインフレかデフレの時に買われ、インフレもデフレも心配ない時に売られるのです。デフレの時にも金が買われるのは「破綻の連鎖」が生じるからです。これはリーマン後に経験済みのことです。
インフレでもデフレでもない、熱すぎず冷たすぎず「適温状態」の経済をゴルディロックスと言いますが、このような時には金の出番はありません。

以上、まずは来年の金価格予測について二つの勘所を説明しました。これ以外にも米中関係など政治要因も無視できませんが、これは別途説明しましょう。

さてさて、それにしても日本のコロナ対策は情けない。
米国では議会で散々ごたついたとは言え、90兆円相当規模の第四弾コロナ経済支援策合意。失業保険上乗せ、個人給付金一人追加600ドル、中小企業給与補填、家賃・奨学金返済猶予など困窮者をピンポイントで救済する発想(もちろん、それを悪用する人や必要ない人にも恩恵が届くことになりますが、それはコロナ後に確定申告などでキッチリ決済してもらう建前)。対する日本はGoToで人々の移動を奨励する政策を一時停止するとか、再生エネルギー・デジタル分野育成など、株式市場好みのキーワードが並びます。

しかし、例えばの事例ですが、年末年始も最前線で命張って働く看護師さんたちとかの支援策強化は、今すぐにでも必要でしょう。看護師さんたちの離職率は確実に増えています。コロナから生還した人たちが必ず発する第一声は世話になった医療従事者への感謝の言葉ですよね。

でも国会は1月18日まで休会。仮に臨時国会が開かれてもおそらく「桜の会」追及に終始するのでは。再度「勝負の3週間」と掛け声は出るけれど、その間国会議員はお休み状態。個人的にはかなりイラついています!

2020年