豊島逸夫の手帖

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トランプ流窮余の一策、ペロシ氏「ステロイドの影響か」

2020年10月7日

退院時には「株価466ドル上昇!(ダウ)28,149。アメリカにとって良いニュースだ!」と自慢げにツイートしていたトランプ氏が、その上昇幅を相殺するほど「悪いニュース」を自らツイッターに投稿した。
「追加財政支援についての交渉を選挙後まで延期と指示した。私が選挙に勝利後、勤勉な米国民と小企業のために大規模景気刺激策を実現させる。」

その時、ムニューチン財務長官とペロシ下院議長は合意の着地点を舞台裏で模索していた。市場は民主党の大統領選と議会選挙勝利(ブルーウェーブ)を織り込み始め、選挙前の追加財政支援合意と民主党政権の大規模インフラ投資政策を織り込み始めていた(共和党も勝利すればインフラ投資案を打ち出すが、民主党案の方が大規模と市場は期待している)。しかも直前にパウエル議長が「財政支援なくば悲劇的結果も」といつになく強い表現で議会での合意を促していた。
まさにそのタイミングを計った如き爆弾発言の直撃を受け、ダウ平均は600ドルほど急落。市場の楽観論は消え、結局前日比375ドル安で引けた。

劣勢に立たされ、退院を強行したトランプ大統領の「窮余の一策」とでも言えようか。自らの支持率を引き下げかねない捨て身の行動でもある。支持率の差が決定的に拡大してしまえば、選挙結果を「無効」と「ごねる」目論見も外れることにもなろう。

一方、ツイートで「2.4兆ドルの民主党案に対して、こちらは気前よく1.6兆ドルまで歩み寄ったのに。例によってペロシ氏には交渉への誠意がない。」と名指しで非難されたペロシ氏は激怒。
「強ステロイド投与が大統領の心理に影響しているのでは。」とまでコメントした。

実は筆者も花粉症が酷くなり仕事に重大な支障が生じるに至り、やむを得ずステロイド投与を受けたことがある。症状は劇的に改善した。しかも夜中にステーキを食べたくなるほどの高揚感を体験した。夜も眠れず、やつれ気味であった頬がみるみるふっくらしてきたものだ。主治医が当然の如く「食欲は増し、大胆な心理状態になりがちだから留意するように。」と語ったことを覚えている。

さて、ホワイトハウスはクラスター発生により実質的に空洞化しつつある。その一室からトランプ大統領はツイッターを多用して、政治・経済の混乱を引き起こすことで「健在」ぶりをアピールしている。

その結果、市場の価格変動は激化してVIX指数は「警戒水域」とされる30の大台に接近中だ。先走った各市場では「民主党勝利、議会のねじれ解消」予測に基づくポジションの巻き返しが起きている。10年債利回りは0.78%から0.73%まで急落。ドルインデックスは93.4から93.8に上昇してドル高。金も「とばっちり」で30ドル急落して1900の大台を再び割り込んだ。ようやく大台回復かと注目の矢先であった。
「転んでもただでは起きない」トランプ氏の執念に、市場は「あっけにとられ茫然」という状況である。

2020年