豊島逸夫の手帖

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金価格が本格的に下がる日

2020年5月21日

日米ともに経済再開期待が強まる中で、モヤモヤしていたマネーが株式市場に流入しています。マネーの源はFRB、そして日銀。コロナ対策として緊急供給されているおカネです。新たな量的緩和が始まったばかりですが、市場はすっかりその効果を織り込んでいます。
そのマネーの一部は金市場にも流入しています。

投資家心理としては、株を買うのだが、第二波も心配。ワクチン開発には1年以上かかりそう。そこでヘッジとして金も買っておくということでしょう。未だ全貌が見えないコロナ禍の中で、日本でも非常事態から徐々に解放されつつありますが恐る恐るの動き。株も上がっていますが安心して買える状況からは程遠い。理屈では株が上がれば金は下がるというのが従来の「市況の法則」でしたが、コロナという特殊な状況では教科書どおりにマネーは動きません。
国際金スポット価格は1750ドル近傍という歴史的に見ても極めて高い水準にあります。それでも未だ買われているところに、コロナに対する投資家の警戒感の強さが滲みます。

仮にコロナが終息しても、FRBも日銀も未曽有の超金融緩和を当分続けるという方針です。コロナ終息、即、緩和終了ではありません。その結果経済が有事から平時に戻っても、未だおカネがばら撒かれ「コロナバブル」に転じるシナリオも考えられます。金融当局としては、終息後、ぶり返した場合に備え、警戒を解くことは出来ないという姿勢で、バブルも辞さずと理解できます。究極の話ですが、企業の連鎖倒産が起こるくらいなら、バブルのリスクの方がまだマシとの判断とも言えるでしょう。解雇・失業リスクから国民の生活を守る方が、バブルで人手不足になるより重要な問題と捉えているわけです。またそれぐらいの覚悟を金融当局が明確に表明することで市場も安堵するわけです。

オーバーシュートという英語がコロナでは感染爆発の意味で使われますが、金融用語では金融緩和或いは引き締めを「やり過ぎる」ことを指す表現です。コロナのケースでは金融「緩和」の方がオーバーシュートするリスクを敢えて取ってゆく金融当局の決意なのです。

問題は金融緩和と言っても、もはやゼロ金利・マイナス金利では手段が限られていること。パウエルFRB議長は最近しきりに、これからは財政政策が重要とも語っています。量的緩和と言っても、おカネをばら撒くだけで問題が解決するはずもありません。

ここは専門的な話になりますが、FRBは日銀に倣い「イールドカーブコントロール」を考慮中であることが、昨晩発表されたFOMC議事録から明らかになりました。1年もの財務省証券と5年もの米国債の利回り(イールド)が一定水準以上には上がらないようなオペレーションが議論されています。
金利が上がらず、ゼロ金利に近い水準が維持されれば、金利を生まない金も買われ続ける市場環境が継続すると考えられます。
「FRBには逆らうな」とウォール街では言われる理由でもあります。
ワクチン開発が本当に確認され進展するまでは、この状況は変わらないでしょう。
逆の言い方をすれば、いつの日かワクチン開発が本当に成功すれば(いつになるか分かりませんが)金価格は下がると思います。

2020年