2020年6月11日
「利上げは考えていない。利上げを考えることも考えていない。」
パウエル議長は畳み掛ける如く語り、ゼロ金利維持の姿勢を強調した。同時に発表されたFRB経済見通し最新版では2022年までゼロ金利継続が確認された。更に金利上昇を抑え込む米国版イールドカーブコントロールまで実際に検討された模様だ。
ここまで言ってくれるとは、金市場にとっては「満額回答」と言える。
国際スポット金価格は1730~40ドルまで急騰した。
更に、記者会見で最新雇用統計の劇的改善について問われ「歓迎すべきことだ。とは言え正直に申し上げれば雇用情勢は厳しい。」と「本音を語る」口調で述べている。FRB経済見通しでも2022年の失業率予測が5.5%と記された。コロナ前の4%割れの史上最低水準に戻るまでの道は遠い。一時帰休扱いの人たちが失業者扱いとなる事例も増えそうとの見立てだ。
株価の方がFOMC後に下落したのも金には追い風となった。
冷静に見ればパウエルバズーカの多くは未だ実行されていない。
目玉の中小企業向けにFRB(中央銀行)が融資するという異例の新政策も、融資条件など細部の詰めに手間取り、未だ始まっていない。
社債購入も、やっと少額での社債ETF購入が開始されたが本番はこれからだ。FRBが社債を購入した場合には企業名と購入額を開示することになっているが、未だ発表はない。
財政が危機的な地方自治体支援のための地方債購入も、実行例はまだイリノイ州の一件だけである。
しかし、株式市場は先取りして「マネーじゃぶじゃぶ感」の「マネーイリュージョン」の如き感覚で株買いを進めてきた。その上で今回のFOMCでは追加緩和を期待していた。
しかし、FRBの「金融政策の道具箱」の中味はほぼ尽きている。
パウエル議長が「財政政策の受容性」を訴えれば、「金融政策の限界」が指摘される。パウエル依存症の症状を呈していたマーケットは、次のよすがをトランプ大統領に求め始めた。大統領選挙を視野に株価下落を誘発する如き発言は控えるだろうとの希望的観測である。
いずれにせよ「政策頼み」の構図は変わらない。
法人税21%から28%への増税を唱えるバイデン候補の支持率が既に上昇中だが、トランプ候補との差が更に開くことになると、株価反騰の潮目が変わるキッカケになりそうな展開である。
金には追い風が吹いている。