豊島逸夫の手帖

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テスラもアップルも売られ、金も大荒れ

2020年9月9日

毎年9月月初の米労働者の日3連休は夏休みの終わり、秋相場の始まりを告げる。今年は特に連休前にこれまで絶好調だったナスダックの主要IT銘柄が変調の症状を示していたので週明けの初動が注目された。

結果はナスダック4%続落。アップル6%安、テスラ21%安。ナスダックは高値から10%下落したので「調整局面入り」が宣言された。
これまでFRB新金融政策を支えに高値圏でも買われ続けてきたが、さすがに投資家たちの心も折れそうな市場環境だ。
振り返ればジャクソンホール直後の市場で潮目の変化の兆しは生じていた。
VIXがスポットでは24であったが、先物の10月、11月ものは30の「危機ライン」を突破していたのだ。そして8日にVIXスポットは30の大台を突破した。
(本欄8月28日付け「VIX先物高が示す米金融政策リスク」参照)
市場はゼロ金利が少なくとも2023年までは続くと「いいとこどり」の解釈でリスク資産買いに動いた。しかしパウエルFRB議長は(インフレターゲット平均値を決めるにあたり)「特に数式があるわけではない」と発言にヘッジをかけていた。
このモヤモヤ感が特に過熱感を誰もが感じていたナスダックで売りの連鎖を誘発したのだ。

金融政策の限界が視野に入ると、頼みはパウエル氏自身が強調している如く「財政政策」となる。しかし議会は夏休みに入り、やっと今週から再開される段階だ。大統領選挙を控え追加経済支援策に関して民主党・共和党の溝が埋まらない。

コロナワクチン開発も主要各社から「臨床結果順調」など明るいニュースが連日入ってくる。しかしトランプ大統領に「あの大事な日(米大統領選挙日のこと)までには間に合うかも」と露骨に選挙を意識した発言をされると楽観論歓迎の市場もさすがにしらける。感染症第一人者のファウチ博士は「年内開発成功はないとは言えないが、まずあり得ない。」と冷ややかだ。

加えて米中関係悪化は連日エスカレート中である。「米国は中国抜きでもやってゆける。」とのトランプ大統領「米中ディカプリング宣言」は、特に市場の警戒感を刺激した。

米大統領選挙は選挙結果が有効か無効か、訴訟の長期化シナリオが浮上している。市場が最も嫌う「不確実性」が強いシナリオだ。

市場内部に目を向ければ、巨大なブラックホールが突如出現した。ソフトバンクの含み益4千億円超とも言われるコールオプション保有だ。オプションは期日までに権利を行使せねば、ただの紙切れ状態になってしまうので、この残高処分を巡り様々な憶測が飛び交う。

筆者が怖いと感じるのはロビンフッターと呼ばれる俄か個人株式投資家集団の間で、孫氏が「ゴッドファーザー」的存在になりつつあることだ。今やナスダックの鯨と呼ばれるソフトバンクの事例が射幸心を煽る結果になっている。既にロビンフッターの一部では株価急落で追加証拠金を払えないという人たちが出始めた。そもそも「マージンコール」とか「追加証拠金」とか言われても、その意味が理解できないレベルの投資初心者たちだ。実に危うい。

一方、習熟した投資家たちはポートフォリオの整理に追われている。まず足元では株高で膨らみ過ぎた株への運用配分率のリバランス。そして中長期的にはコロナ後を見据えた新たなポートフォリオの模索。そこには有事対応で未曽有の規模になった財政金融政策から生じかねないインフレリスクなどが含まれる。しかし構造的ディスインフレに慣れ切った一般投資家にとって「インフレ」という単語は死語に近い。ピンとこない。

一方、ヘッジファンドの間ではパウエル議長の「インフレ率オーバーシュート容認発言」を「株バブルでも緩和は継続する」と深読みする都合よい解釈もまかり通る。現金ポジションが膨れ上がったヘッジファンドには焦りの色も顕著だ。何かに投資せねば会員に解約されるので、現在進行中のナスダック変調が発する市場の異音に「チャンス到来」と色めき立っている。

まず米ドルと米国債が「安全通貨」、「安全資産」として祭り上げられ投機的買いの対象になった。
ドルインデックスは92台から93台へ上昇している。
結果的にドル金利が下がっているのにドル高の展開だ。

商品市場では欧州や新興国でのコロナ感染拡大による需要減を嫌気して原油が売られWTI先物価格は一日で8%も急落した。これも市場心理を冷やす。

そして金は24時間の変動レンジが1905ドルから1941ドルと大荒れ。結局1920ドル台で推移している。株安で追加証拠金を要求された投資家が手持ちの金を売って現金捻出に動くなど緊急性が高い事例が目立つ。短期投機マネーも、それ9月相場入りだと心機一転、大暴れだ。

気候までもが9月に入り異常だ。ロサンゼルスを熱波が直撃して49度を記録したが、モンタナ州は時ならぬ降雪に見舞われた。
荒れる9月相場を暗示するような天然現象である。

2020年