豊島逸夫の手帖

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過去最高値圏の金価格、長期上昇力は株に大敗

2020年9月11日

首題は日経電子版マネー欄に日経編集委員が書いた記事の見出しです。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63505130W0A900C2K15300/

「株に大敗」というスポーツ紙みたいな見出しの取り方で、アンチゴールド派ということが知れますね。
素人の女性と大学講師の気楽な会話形式に仕立てあげられています。

「セミナーの講師は今後も経済的な混乱が続く中で上昇が見込まれるから、資産の3~4割は金にしておくのも選択肢だと言っていたわ。私もそうしようと思うの。」という女性の質問。いきなり初心者に資産の4割は金で持てというセミナーなんてあるんですかね。かなり乱暴な設定。筆者もこのブログの読者には3割を薦めていますが、オープンセミナーで初心者にいきなり3~4割はないですよ。
まずは1割です。何やら意図的な質問設定の感じがします。

「金は確かに足元で上がっているけど、海外資産に投資するときの代表的な資産である先進国株に比べて、同じ円ベースで上昇率ははるかに劣る。」
「......確かにぼろ負けだわ。」

このやり取りですが、投資とはリターンとリスクの最適な組み合わせを模索するものなのに、リターンのところだけ取り出し、それも極端な事例を引き合いに出しています。ここも恣意的な解釈だと思います。リスクの面では、株価は底抜けしてゼロ(紙くず同然)になる、金の現物は破綻しないというリスクに関しての重要な事柄が抜けて(あるいは意図的に抜かして)書かれています。そもそも金購入者調査で最も頻繁に出る購入要因は「金は紙くずにならない」ですから。

「コロナ下での経済環境が金利を生まない金のデメリットを目立たなくさせているんだ。」まぁ、ものは言いようですけど。。。いかにも渋々金について書いている感が伝わってきます。

そして話題を実質金利に。ここは確かに重要です。しかし初心者に「実質金利」について説明するのは大変ですよ。「回帰分析」まで持ち出して説明しています。
とにかく分かってもらうのが難しい。「ゼロ金利の預金にしておくと物価が上がれば、その分は目減りしてしまう」程度の言い方にしないと、まず理解してもらえません。ここは書き手の経験不足なのでしょう。実は難しいことをやさしく書くということが最も難しいのですよ。かくいう私も30年かかって、やさしく説く術をまぁまぁ取得したかなという程度です。

最後は実質金利が上がるか下がるかの質問に「わからない。だからこそ様々な可能性に備えて分散投資が必要なんだ。(中略)だから金を一部持っておくのも手だと思うよ。ただもう一つ知っておきたいのは、国内の金価格は円高になればその分目減りすること。」

最後まで金を斜めに見る視点が変わらなかったことで、一貫性はあると言えましょうか(笑)。

筆者は金への反対論・消極論も投資家は聞くべきだと思います。だから常に投資の主役は株、脇役は金と語ります。努めて中立的な立場から金を語るために普段から日本株、円相場、債券市場などについても積極的に語ってきました。それだけに、こういう記事を見ると一言言いたくなるわけです(笑)。

2020年