豊島逸夫の手帖

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ウォール街に潜む隠れトランプ支持派の本音

2020年10月5日

トランプ大統領コロナ感染に関する経過報道が刻々と流れ、市場も気になるところだ。しかし週明けの市場で目立った反応は見られない。ダウ平均先物も時間外取引で若干上昇して始まった。特に円高、金高にも振れていない。

NY市場の人的ネットワークを通じて様々な見解が入ってくるが、総じてトランプ大統領の容体について真偽を測りかねている。

週末2回開かれた医者団との記者会見は注目されたが、主治医発言の食い違いが問題視された。総じて一回目は楽観的なトーンに終始したが、批判を受け、二回目では血中酸素濃度が基準値をかなり下回る94以下となる局面もあったことなど具体的な数値も明らかにされた。とは言えなぜ一回目に示さなかったのかとの問いに対しては「医療チームの前向きな姿勢を反映した発言で違う方向に導く如き情報は控えた。その結果隠蔽の誹りもあるが、それは必ずしも正しいとは言えない。」と答えた。軍の病院であり主治医と言えども軍人だ。医師としての良識との板挟みでいかにも苦しげな答弁と市場では話題になった。

結局今後のトランプ大統領の容体次第ということになる。それは現時点で誰にも分からないことだ。新型コロナウイルスの症状が急変することは知られておりマーケットは臨戦態勢である。

最新の支持率は各種世論調査で概ねバイデン候補のリードが広がりつつある傾向だ。

NYウォール街では民主党支持者も多いのだが本音ベースで聞くと隠れトランプ支持者も少なくない。株価を政権通信簿として重視してきたトランプ氏の方が、マーケットと距離を置きクールな姿勢のバイデン氏より「マシ」との判断である。

このままバイデン勝利シナリオでも、トランプ復帰勝利シナリオでも株高継続との見方も根強い。

パウエル議長が顕在でインフレ率が2%を超えても、ゼロ金利を2023年以降も継続する「フォワードガイダンス」を維持してくれれば、米国債の実質イールドのマイナス状態は続く。投資家は債券より株式を選好するとの読みだ。

バイデン候補のトランプ法人減税リセット方針が株安を誘発するリスクも指摘されるが、民主党の財政大盤振る舞い期待も根強い。足元ではトランプ氏容体とほぼ同等のレベルで追加財政支援策の議会での進展が注目されている。

先週金曜日のNY市場ダウ平均の動きもトランプ感染ショックで一時は400ドル超下げていたが、ペロシ下院議長の一言で急激に下げ幅を縮小した。「航空会社は社員の一時帰休を控えてほしい。航空産業への救済策がまとまりかけている。」との発言であった。

マーケットはムニューチン財務長官とペロシ下院議長との間の「ホットライン対話継続」に期待する。

ここで万が一ホワイトハウスのクラスターが財務長官にも及ぶと、これは市場の失望感を醸成しよう。副大統領候補の討論会を控え、ペンス副大統領の感染有無も連日注目されている。

病床のトランプ大統領も座視しておられず、批判覚悟でリムジンに乗り、病院周辺に集まる支持者に健在ぶりをアピールした。

感染を逆手に取り、自らの「コロナウイルスと戦う」姿を誇示して愛国心に訴え、同情票を増やすとのしたたかな戦術とも映る。

自身のツイッターにも複数回、ビデオメッセージを投稿しているが、頬のあたりが徐々にふっくらしてきたように見えるのは「ムーンフェイス」と呼ばれるステロイド投与の影響と見る向きもある。そこまで計算しても不思議ではない「選挙のプロ」なのだ。

禍転じて福となす「奇跡」も絵空事とは言えない。

2020年