豊島逸夫の手帖

Page3423

中国の金需要

2022年1月18日

人口14億人の中国は世界最大の金需要国。
筆者は中国の大手金融機関で貴金属・外為のアドバイザリーを務めた経験があり、そこで現地の人的ネットワークを構築した。現場発の中国金需要について様々な生の情報が入ってくる。

まず、大手金融機関には金を扱う部門がある。中国では金流通の核は銀行だ。中国人個人顧客に金を販売している。既に中国国内の各行は現金輸送などのおカネのサプライチェーンを構築している。国内支店に現金輸送車が回っているので金現物もそれに乗せればよい。支店・駐在員事務所の数は各行、1万を超える。

売れ筋の商品としては十二支のキャラクター付きの金地金が人気だ。金、銀のメダルもよく売れる。金関連の理財商品もあるが、ハイリスクハイリターンでやや危ない商品だ。機関投資家向けには金ETFもある。
純金積立も根強い需要がある。少子化傾向が加速する中で年金不安が社会問題化しているので老後に備えた貯蓄は欠かせない。一人っ子政策の影響で夫も妻も一人っ子という夫婦が少なくない。政府は二人目、三人目を奨励するが、将来への不安で子供の数は増やせない。そのような環境なので金が選好されるのだ。日本と異なるのは金を嫌う人が少ないこと。そもそも人民元より金を選好する傾向が強い。

仮想通貨も人気だったが禁止されている。デジタル人民元の実験は開始されている。それからネットでの金売買も一般化している。

筆者は実際に現場で指導にあたってきたわけだが、ビックリするのは販売計画の桁が違うこと。何せ人口14億人の殆どは文化的金選好度が高い。大手行は3億、4億の規模で個人口座を抱える。それゆえ筆者が日本で馴染んだ販売量の数字より少なくとも一桁多い数値目標が並ぶ。純金積立の口座数、一行で目標1千万と設定されても「控えめの数字」とされる。

なお、中国個人投資家気質は米国に似ているので先物も人気だ。決済を二日とか五日などと延ばすタイプの中国型延べ取引(deferred)が好まれる。

時期的にはこれから始まる春節が販売のピークになる。
ただ今年はオミクロン株警戒で厳しく人流が制限されているので金需要も減少が見込まれる。
とは言え、基本的には中国人の金需要は根強い。
「金価格が下がるのはいつ?」と聞かれると、筆者は「中国人とインド人が金を嫌いになる時」と笑って答えている。

参考までに写真3点を添付する。
まず60億元紙幣(1949年発行)。その60億元の購買力見本として下の丸窓にお米一握りが展示されている。ハイパーインフレを経験しているので紙幣より現物の金が選好される。銀行博物館に展示。

3423a.jpg

次は大手銀行の原点。17世紀上海の金銀とおカネの交換業から始まった。その当時の支店の様子が蝋人形館で再現されている。

3423b.jpg

そして銀行支店内の金関連掲示物。

3423c.jpg

2022年