豊島逸夫の手帖

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FOMC翌週、パウエル議長、まさかの心変わり

2022年3月22日

FOMC後の金価格は概ね1930~40ドルの水準で推移している。
一言で言えば利上げ耐性が強くなったようだ。

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以下に詳述するが、FRB議長やFRB高官から相次いで利上げペースアップのトークが飛び出しているが、金価格は下がらず、上げる局面もある。利上げピッチを速めるということは、インフレがそれだけ進行しているためなので、インフレヘッジとしての金は買われやすい。但し市場の期待インフレ率は膠着しているので、ドル実質金利のマイナス幅が縮小しており、金には逆風になる。とは言え実質金利がマイナス圏であることには変わりなく、金は上げやすい市場環境と言える。因みに3月19日の日経新聞朝刊に筆者の1980年代からの友人であるジョージ・ミリングスタンレー氏のインタビュー記事が載っていた。筆者より3年、年上かな。未だにSPDRゴールドシェアーズの仕事に従事している。コロナ前はNY出張すると会っていたものだ(NYMEXでツーショット)。

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同氏の、と言うよりSPDRのハウスビュー(公式見解)はAのシナリオが1800~2000(確率50%)、Bのシナリオが2000~2200(30%)。公式見解らしく、強気でも弱気でもない、どっちもアリという表現。まぁジョージも組織で働いていると本音は言えないからね(笑)。

なお、円安が進行。120円突破。その背景の金利差要因は以下の詳説に含まれる。

さて、ここから中級者向け詳論。
タイトルは「FOMC翌週、パウエル議長、まさかの心変わり」。
「0.5%幅利上げ支持」。先週16日のFOMCでタカ派主導格セントルイス連銀ブラード総裁一名の反対意見として声明文に記されていたことだ。
それが週明けにはパウエル議長により自らの見解として表明された。しかも0.5%幅利上げ複数回を支持している。
FRB議長、異例の短期間での変心。
その伏線は18日金曜日にあった。
まずNY時間同日早朝にブラード氏がセントルイス連銀ホームページに総裁公式声明文として「反対の理由」を詳説した。
「FRBはインフレ見通しを誤った。」と批判。
「米国経済は労働市場逼迫などで打たれ強い。利上げに耐えられる。早急に政策金利を年内3%以上に引き上げるべき。インフレは低所得層を直撃する。強力な利上げの成功例としては1994~5年の事例が挙げられる。」と持論を展開した。概ね年内FOMC会合ごとに0.5%利上げとの考えだ。過去の成功例や米国経済の利上げ耐性は21日のパウエル発言でも言及されており、タカ派に傾斜するパウエル議長の心の中が透けるようだ。

ブラード声明に呼応するかのように、かねてから0.5%幅利上げ論を支持してきたウォラーFRB理事も鬨の声を上げた。「ドットチャート(FOMC参加者の金利予測分布図)には0.25%と書き入れたが、それはウクライナ情勢が不透明だからだ。経済データは0.5%幅利上げを求めて悲鳴を上げている。」とドラマチックな表現で「本音」を明かした。

それでも、この両氏は筋金入りのタカ派であり、今回のドットチャートでも今年末金利予測3%前後に突出したふたつのドット(点)があったので、反主流派の極論と解釈もされた。

しかし、その後市場が「これこそ劇的変化」と驚いた発言が飛び出した。
ミネアポリス連銀カシュカリ総裁までが「年内、高圧経済が続くなら1.75~2%まで利上げも。」と言い出したのだ。最終的には中立金利を僅かながらも上回る水準までの利上げ可能性にも言及した。同氏は米国のFEDウォッチャーの間では超ハト派に位置付けられる人物である。昨年は2022年利上げ無しと論じていた。

強力な利上げウイルスが想定以上にFOMC内部に転移中とドクターパウエルも腹を括ったのではあるまいか。
しかも、当日(18日)のダウ平均株価は274ドル高で引け、結局利上げを決めたFOMC開催週に5日続伸した。
実態は商い薄の中の売り方手仕舞いなのだが、パウエル議長は市場への影響を最低限に抑えつつ利上げペースを速める自信を持ったのかもしれない。

0.5%刻みの利上げで回数は減らし、利上げサイクルを短期間に切り上げる方が効果的との読みも考えられる。劇薬集中投与という荒療治だが、今の米国経済体質であれば副作用は限定的との治療方針である。21日の米国市場もパウエル発言後にダウ平均が400ドル超急落したが、その後は下げ幅を縮小。結局201ドル安で引けた。FEDウォッチが示す5月0.5%利上げ確率は57%にまで上昇。0.25%幅利上げ確率42%を逆転している。

とは言え、市場は困惑もしている。
FRB議長にこれほどアッサリ見解を変えられると、今後のパウエル発言もどこまで信じてよいものやら。同氏は最近「全てのFOMC会合がライブ」という表現を好んで用いる。経済や市場環境が変われば、nimble(機動的)に対応するとの姿勢だ。今回のFOMCは想定内の0.25%利上げ決定でサプライズもなかったが、実質的な本番は翌週に来るという時間差攻撃に見舞われた。FRBとの間に闇討ちはしないとの暗黙の了解があると思い込んでいた市場が甘かったのか。後々尾を引きそうだ。市場の視点で真の敵役はプーチン大統領よりパウエル議長かもしれない。

2022年