2022年4月28日
ロシアがドル決済システムの国際銀行間通信協会(SWIFT)から除外されたことで、米国と友好的ではない国々は基軸通貨ドル依存体制のリスクを噛み締めている。
そもそも中国は通貨覇権のドル一極集中への挑戦として、人民元をドル、ユーロ、円、ポンドに次ぐ国際通貨とすることを通貨戦略としてきた。
そこにロシアも協調してきた。ロシア中央銀行は外貨準備の一部をドルから金に換えた。さらに同国の公的金準備量が2000トンを超えたところで、買いの矛先を人民元に向けた。さすがにルーブルを国際通貨として認知させることは現実的ではなく、人民元を支えることによって中ロ協調でドル一極支配体制に風穴を開ける目論見が透ける。
その矢先に勃発した対ロシア経済制裁により中国側もドル依存体制からの脱却を急ぐ。そこでロシア以外の有力協力国として浮上してきたのが原油供給国のサウジアラビアだ。巨額の決済を人民元建てにするとの構想が原油市場に流れる。既に2020年には英BPが上海先物取引所で人民元建てにより中東産原油を引き渡すなどの事例が出ているからだ。
背景には「ペトロ人民元体制」を構築する構想がある。新型コロナウイルスにより世界的原油需要が激減したことは、中国が巨大な購買力に物を言わせて人民元決済を迫る機会となった。米ウォールストリートジャーナル紙も書いたことで、ウォール街の話題にもなっている。
サウジアラビアも米国への不満を募らせていた。アフガニスタン撤退、核合意に関してイランに接近、ワシントンポスト記者殺害疑惑などが要因だ。
対して中国は友好的で習近平(シー・ジンピン)氏のサウジ訪問も年内に予定されている。
原油需給面でも米国は原油供給の対外依存度が薄まる一方で中国は世界最大級の原油輸入国となった。今こそ原油ドル建て決済に風穴を開けペトロ元決済を拡大するチャンスと見るであろう。
但し、サウジの通貨であるリヤルはドルにペッグ(連動)している。ここは人民元を含む複数通貨バスケットにペッグすることが必要になろう。
筆者は改めてノーベル経済学者のマンデル教授が提唱する「最適通貨圏構想」に注目している。世界の地域ごとに基軸通貨を定めるという発想でユーロ誕生の理論的裏付けともなった。
米国大陸はドル、欧州はユーロ、アジアは人民元か円か。そして中東だが、地域共通通貨が見当たらない。一時はマハティール・マレーシア首相がイランとの貿易決済に金の裏付けのあるゴールドディナールという新通貨を提唱したこともある。この通貨真空地帯ではドルと人民元が競うシナリオが有力になってきた。
日本人として気になるのは円がローカルカレンシーとして存在感が薄れることだ。今の円安についても円の購買力が歴史的な低水準に落ち込んでいることが指摘される。長期的な視点に立てば将来の円が置かれる状況を予知するかのような円安にも映る。
さて、今週土曜日30日午後7時半からの「ブラタモリ」の時間帯の特別番組で、内村光良「四大化計画 ~世界は3つで語れない~」というエンタメ系教養番組にて、金がテーマの一つになるよ。私もお手伝いした。
https://www.nhk.jp/p/ts/7NJLM98XNM/