豊島逸夫の手帖

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国際金価格、1700ドル割れの局面も

2022年9月2日

ドルインデックスが109を突破。

金は1700ドル割れも。しかし金を取り巻く状況に変化なし。

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さて、以下は今週月曜日の朝日新聞朝刊への寄稿文。

ウクライナが外貨準備で保有していた金20トンを売却しました。同国は外貨で借りたカネが返済できず、「部分的債務不履行」のレッテルを貼られています。危機的な財務状態ゆえ、お宝の金を売ってドルを調達しなければならないのです。

そもそも「有事の金」とは、戦争が始まったから金を買うことが本筋ではありません。平時からじっくり買い増し、戦争に巻き込まれたときには売ってしのぐものなのです。

一般人にも家庭内有事が起こる可能性があります。夫のリストラ、妻の病気など、まさかに備えた資産として、希少性ゆえ独自の価値を持つ金が買われるのです。

更に、ペロシ米下院議長の台湾訪問で緊迫する、台湾有事に備える事例も日本国内で出始めました。北海道では、「ロシアの侵攻」に備え金を買う人もいます。そんなことは絵空事と思っていた日本人の有事意識が劇的に変化していることを筆者もセミナーなどで痛感しています。

そして、ウクライナ戦争は、原油や小麦の価格上昇を通じて、インフレを誘発しました。金には、オイルショックに起因するインフレが世界的に拡散した1970年代に、価格が3倍に急騰して、インフレ・ヘッジ(備え)となった実績があります。

既に米国の消費者物価指数の上昇率は年率8%を超えました。このインフレを抑え込むため、米国の日銀にあたるFRB(米連邦準備制度理事会)は、ゼロ金利を解除して、利上げを連発中です。その結果、金利が相対的に高いドルが買われ、円は売られるという「円安」が異例のスピードで進行しています。円の実力が弱まると、円の購買力が激減します。そこで資産運用の観点では、資産を全て円だけで持つことのリスクに備える必要があります。ドル建て資産の金は、その選択肢の一つとなります。これまでは「外貨建ての投資は為替リスクに注意しましょう」と言われてきたので、ここは発想の転換が必要です。

とはいえ、金は配当や金利を生まないので資産運用の世界ではあくまで脇役です。主役の株や債券の調子が悪いときに、逆に価値が上がる傾向があり、リスク分散効果を発揮するのです。財産の10%程度をめどにまとめ買いは避け、地道に積み立てることを薦めます。プロの筆者も、金は積立に徹しています。

今年は、インフレと円安のダブル効果で、国内円建て金価格が史上最高値を更新しました。このような高値圏から買って良いものか、との質問も受けます。まずは、お風呂のかけ湯感覚で、食事会の1回分を毎月、金で積み立てることから始めるのが良いでしょう。1年もすれば、慣れてきて、それから本格的に金購入に動いても決して遅くはありませんよ。現物を長期保有が資産としての金購入の本筋です。

2022年