豊島逸夫の手帖

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パウエル議長、強力なタカ派となり、金1800ドル割れ

2022年1月28日

紆余曲折があったが、結局今回のFOMCではパウエル議長の大胆なタカ派姿勢に市場が反応することになった。年内の全てのFOMC会合ごとに利上げとか、0.5%刻みの利上げとか、強いタカ派的金融引き締め政策を「否定しなかった」ということが重視された。この点について筆者は異論があるが、それはこの本論の以下に詳述する。

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とにかくこの解釈により、金利を生まない金は売られる展開になった(KITCOグラフ緑線参照)。とは言え金融超緩和から金融引き締めに歴史的な転換時期となったことは事実だ。従って投資手段も、もはや「何でも上がる相場」などと甘いことは通らない。株式投資も、もはや「とにかく買っておけばいつかは上がるかも」という楽観論は通用しない。投資先の選択が極めて重要になる。特に攻める投資の失敗確率が増えるので、守る投資が重視される。そこで当然のように「金」が浮上してくる。既に昨日のウォールストリートジャーナルはETF分野で金ETFへのマネー流入が他の資産に比し最大であると報じた。世界の投資家は機敏に経済のパラダイムシフトに対応している。金融引き締めで金利、特に実質金利が上がれば金には逆風で1700ドルも視野に入る。しかし長期投資の視点では安く金を買い増せる時期となる。

さて、以下に筆者の感じる米金融政策の違和感を詳述する。理屈っぽいから読むも読まぬも勝手(笑)。

FOMC後のパウエル記者会見での一連の発言の結果、27日にはウォール街の大手投資銀行が相次いで利上げ回数、利上げ幅、QT開始時期について大幅な改訂を発表した。年内全てのFOMC会合で連続利上げとか、3月利上げは0.5%幅とか、先週までであれば極論とも言えるような数字が並ぶ。しかし今年1-3月期の米GDPが2%台に落ち込むと予想される状況で、本当にこれほどアグレッシブ(積極的)な引き締めができるのか。そもそもパウエル議長のアグレッシブなタカ派スタンスと言われるが、筆者はその本気度に疑問を感じていた。4回以上の利上げや0.5%刻みの利上げ幅が否定されなかったとのことだが、3月利上げをコミットしたわけでもなかろう。たまたまニューヨーク市場のFEDウォッチャー氏と電話で話す機会があり、このモヤモヤ感をぶつけたところ「それはフォワードガイダンスが無いからだ」と指摘され、思わず手を打った。パウエル議長は、例えば国債買い入れについては「最大雇用と物価安定の目標に向けて更なる大きな前進(substantial further progress)を遂げるまで継続する」という先行き指針(フォワードガイダンス)を設定していた。それゆえ有事対応の非伝統的金融政策の出口にあたっては、これまで同様に何らかのフォワードガイダンスを設定して、透明性を高めるべきではないか。今回はアグレッシブな引き締め案について否定しなかったことが市場では重視されている。パウエル議長は否定も肯定もしないことで、政策選択肢を温存した形だ。フォワードガイダンスらしき表現を探すと、例えば同議長が最近頻繁に使うnimble(機動的)に決めるということか。全てのFOMC会合が「ライブ」であり、データ次第で「リアルタイム」に決めてゆく姿勢だ。

しかし、これでは市場に様々な憶測が流れ、不透明感が増すは必定だ。前回12月のFOMCに関しては、後日発表のFOMC議事要旨で想定を遥かに超えるFOMC内のタカ派傾向が確認され、結果的に1月6日の日経平均は844円急落した。今回も議事要旨にパウエル議長が語らなかった事実が含まれているかもしれない。要注意だ。

パウエル議長側の視点で見れば、今の経済はコロナという大きな不透明要因を抱えるので、機動的に対処する以外に方法はないのかもしれない。とは言え結果的な闇討ちは市場に疑心暗鬼の連鎖を生むだけだ。いずれこの問題が論じられるであろうと先述のFEDウォッチャー氏は語っていた。

なお、筆者は市場の視点から、まず3月、5月に0.25%利上げを連続して実行し、点検の上QT含む次の一手を決めることが適当と考える。そのプロセスを予め明示すれば、市場の混乱も最小限に抑えられると考える。

2022年