豊島逸夫の手帖

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円売りかユーロ売りか金売りか、迷うヘッジファンド

2022年7月19日

ドル独歩高が市場の潮流となり、通貨ペアとして売られる通貨の選択がヘッジファンドのパフォーマンスにも大きな影響を与える。

これまでは、ほぼ円の一択であった。「日銀は永遠のハト」と位置付けられる。日銀には金融政策に有効な引き締めの選択はない。イールドカーブコントロールを多少いじっても限界ありと足元を見られている。日銀は世界的金利高傾向により、上昇圧力がかかりやすい円の金利を頑として抑え込んでくれる。円売り仕掛人としての国際通貨投機筋にとって、これほど頼もしい中央銀行があろうか。110円台から円を売っては、下がったところで買い戻すプロセスを繰り返し連戦連勝。遂に140円近傍まで来てしまった。

とは言え、さすがにこんな旨い話が長く続くはずはないとの認識が出始めたところで、ユーロ安に拍車がかかり始めた。

このまま円売り続行か。おそらく150円になっても日銀には有効な対抗手段はあるまい。米国側の視点でも、中間選挙で苦戦中のバイデン大統領にとってドル高の輸入価格引き下げ効果は魅力的なインフレ対策だ。CPIが年率9.1%に達し、藁をも掴む思いであろう。中間選挙までにインフレ鎮静化はほぼ不可能だ。現実的には少なくともインフレピークアウトを想起させる分かりやすい材料が欲しいところだ。イエレン財務長官にしても、今は自国通貨安批判や為替監視国の案件に拘る時期ではない。為替は安定を望むと語る程度だ。

とは言え、ユーロ安も根が深く、通貨投機筋には魅力的選択肢ではある。日本も原油供給を中東に依存するが、欧州のロシア依存も容易には変えられない。直近ではロシアがバルト海経由天然ガスパイプラインのノードストローム老朽化と修繕を理由に供給を中止した上で、済し崩し的にドイツのエネルギー生命線を抑え込むシナリオが現実味を帯びる。その場合ドイツの経済成長率には強い下振れ圧力がかかり、ユーロには構造的要因による売り圧力が更に強まるのは必至だ。ドル・ユーロ等価現象など、ユーロ安トレンドの過程で通過点に過ぎない。

歴史的見地でも、経済政治面でユーロを支えてきたドイツの求心力が急速に低下している。ギリシャ危機の時にはユーロ安と言ってもドイツがラストリゾート(最後の頼り)として隠然たる存在感を発揮していた。ECB(欧州中央銀行)も当時のドラギ総裁が「何でもやる」と明言してギリシャ国債を買い支えた。ドイツは反対したが結局ドラギ総裁に従った。そのドラギ氏が今やイタリア大統領となり、五つ星運動の協力なくば辞任というEUを揺らす国内問題の渦中にある。地域統一通貨ユーロの脆さが国際通貨投機筋のユーロ売りを誘う。

とは言え、ECBは寄合所帯ゆえ金融政策面でも日銀ほどの一貫性には欠ける。インフレ抑制を視野に渋々0.25%利上げが予想されるが、南欧諸国への経済的打撃も考慮せねばならない。ECBは「永遠のハト」と表現できる状況とはほど遠い。そもそもフランクフルトのECB本部はFRBや日銀と異なり、高層ビルで加盟国の代表者たちが同居する場である。どこまでユーロ安を黙認するのか。ユーロ安の輸出面でのプラス効果と輸入面でのマイナス効果の評価が加盟国により異なり、賛成反対意見が入り乱れる。ユーロ安に賭ける投機筋には不安要因だ。

結局、ニューヨーク市場の通貨投機筋は、円売りで行けるところまで攻め込み、同時進行的にユーロ売りも進めるが、こちらは「要経過観察」として唐突なユーロ反騰も想定して通貨オプションによるヘッジ手段の備えも怠らない。ウクライナ戦況とロシアのエネルギー外交は予断を許さないからだ。

なお、ポンドも投機的売りの対象通貨であったが、ジョンソン首相辞任により反騰したので当面様子見の姿勢だ。

新興国通貨は、このカテゴリーに様々な国情を抱える国々があるが、チャンスあらばいつでも出動の姿勢である。

私見だが「永遠のハト」は次期日銀総裁でも恐らく変わらず、否、変えられず、日銀対ヘッジファンドのせめぎ合いは続きそうだ。国際派の候補者が選ばれれば、ヘッジファンドには手強い相手登場と映るやもしれぬ。

そして、ヘッジファンドには金売りの選択肢もある。NY金は1700ドル大台攻防。なんとか持ちこたえている。
円売りやユーロ売りほどのインパクトではない「今、金を売らねば」という切迫感は薄い。上げても下げても、短期間に大きな利幅は期待できない。値動きが相対的に安定しているから安全資産なのだが、短期投機筋には旨味が薄いと映る。そもそも金を持つ発想が「投機なのか」、「長期投資なのか」この違いであろう。

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さて、ワクチン接種やら、対面の仕事やらで暫時帰京。札幌慣れしたカラダは纏わり付くような東京の暑さに順応できず。ブーブー言いながら仕事中(笑)。早いとこ片付けて帰札だ。カーペンターズの「Rainy Days and Mondays」を聴きながら一息。今朝の気分。これは名曲だね。英語も実に分かりやすい。若い人たちはこの曲↓を知らないだろうな(音出るから注意)。

https://www.youtube.com/watch?v=5894HighgGw

そして、今日の写真は鮮やかな色の北海道産イチゴのデザートと全部自家製のハム類@アグリスケープ。

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2022年