豊島逸夫の手帖

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金は持って役立たないのが一番良い!

2022年111

金の役割は総じて、経済や政治で悪い出来事が起きた時に、実物資産である金の持つ独自の希少価値が、その威力(安定性)を発揮することにある。今で言えばスタグフレーション(物価は上がるは、景気は悪くなるは、泣きっ面に蜂現象)、或いは台湾有事、ロシア侵攻、北朝鮮ミサイル着弾。どれも願わくば起こっては欲しくない。日本周辺の有事は、これまではそのようなケースを論じれば「恐怖感を煽り、金のセールスか」と言われたものだ。ところが今や他人事とか絵空事とは片付けられないリスクとして、多くの日本人が感じるようになった。日本人の一人として、そんな時代になってしまったかと痛感するが、セミナーなどでは皆真剣に有事の議論に聞き入っている。スタグフレーションのリスクについてもそもそも日本の景気はコロナ前からお世辞にも良いとは言えなかった。その上にコロナ由来で世界的物価上昇。更に円安で輸入物価急騰。資源を輸入に頼る国のリスクをこれまた思い知らされている。

このような時代だからこそ、金の売買で一儲けというような都合の良い話は転がっていないことも骨身にしみて分かっている投資家も多い。「リスク分散」という専門用語を使わなくても矢を3本持てば折れにくいという直感的発想で、とにかくいろいろな資産に分散しておくということもおぼろげながら分かってきたという反応が目立つ。そこを確認したくてセミナーに参加したとの声も聞こえてくる。ネットで色々な情報が入ってくるが一人でどれが信頼に足る情報か判断することは不安なものだ。

そこで役立ってくれているのがYouTube。私にも意外な展開であったが、話している人が顔をネット上で晒して語りかけることで、その人の性格とか信頼性が判断できるからだ。少なくとも書いたものを読むより実感はある。

但し、筆者の眼で見る限り、YouTube上の金に関する情報は極めてお粗末な話が溢れている。まさに恐怖感を煽るようなサムネイルとか、実にお粗末な「理論」とは言い難い屁理屈などがずらりアップされている。筆者のYouTubeも場合によっては、その類と同一視されかねないリスクはある。ここは辛抱強く地道に語り続けるしかない。そもそも金を知るということは世界に目を向けなければならない。日本人が不得手とするところだ。国内経済とか円とか、内向きの話だけでは金の理解は深まらない。いきなり金だ、プラチナだと話を始める前にじっくり世界情勢を語り理解してもらえば、自然に金の必要性が頭の中でジワリ浮上してくるものだ。

総じて、投資で買った株が紙くず同然になったなどの失敗体験がある人ほど金の有難みが言われずとも分かる。幸いに失敗体験が無い人ほど分からないものだ。それに越したことはないのだが、将来的に悪徳商法に引っ掛かりやすい傾向があることは筆者が見てきたことだ。痛い目に遭わないと分からないということだよね。話の次元は異なるが自転車の暴走事故が頻発して警視庁も遂に悪質なケースではレッドカードを切ることになった。これも被害者が痛い目に遭うという事故が連発して、初めて皆がリスクを感じ始めたわけだ。対して加害者はその事故リスクに全く無頓着であった。筆者も自転車では苦い体験がふたつある。ひとつは子供の頃、自転車に乗り、四つ角でいきなり渡り、正面衝突したこと。その後、例えばママさんが子供を前の荷台に乗せ、自転車で結構なスピードで四つ角に突入する局面を何度も見てきた。このママさんは子供の頃に私のような痛い体験をせずに済んだのだと感じる。もうひとつこれは本当に怖かった。タクシーで住宅街を走行中、いきなり三差路で自転車に乗った女の子が前方確認せずタクシーに突入したのだ。後部座席に居た筆者はその瞬間の窓越しの少女の恐怖の表情をまざまざと覚えている。死亡事故にはならなかったのが不幸中の幸いと言おうか。この少女は後年子供を持ったら交差点注意と厳しく教育しただろうね。

2022年