2022年10月31日
市場内の「12月は利上げ0.5%以下にペースダウン」との議論の火付け役となった米経済紙観測記事の記者が、28日に米経済テレビ番組に電話出演して当該記事の内容を修正した。
記者のニック・テミラオス氏の発言内容は以下のとおりだ。
「今日発表された米雇用コスト指数が高水準であることが気になる。利上げの終着駅(ターミナルレート)をやや高めに設定すべしとの議論になるかもしれない。12月利上げ鈍化観測に関する議論は視界が開けない。」
28日に発表された同統計は2022年7-9月期に前期比で1.2%、前年比で5%上昇。歴史的な高水準を維持している。FRBも今後のインフレ動向を占う上でかねてから注目している指数だ。
更に、週末にはロシアがウクライナ産穀物の輸出再開合意への参加を一方的に停止したこともインフレ高水準継続の観測を誘う。11月1~2日のFOMCで11月0.75%利上げは事実上決定としても12月の利上げ幅に関しては議論が振り出しに戻る如き流れとなった。しかも11月2日には雇用統計も発表される。
11月FOMC後の記者会見でパウエル議長は間違いなく12月利上げについて質問されるであろう。しかしその場で確定的な返事ができるはずもなかろう。市場の注目は発言の行間に流れるニュアンスだ。9月FOMCの時点では19名中17名が2022年末政策金利を4.4~4.6%のレンジで予測していた。FEDウォッチャーたちが驚くほどの「ほぼ全員一致」だ。しかし現時点では既にサンフランシスコ連銀デイリー総裁やシカゴ連銀エバンス総裁らがタカ派への急傾斜に一石を投じている。この内部状況を「根回しが得意」とされるパウエル議長が如何に説明するか。筆者は言質を取らせぬ発言で切り抜けると予想している。その場合12月まで市場内は様々な議論で揺れることになろう。
ダウが800ドル以上急騰しても所詮売られ過ぎの中の「ショートカバー」で片付けられる。或いは株新規買いポジションにしても12月FOMCまでの賞味期限付きだ。
日本人として気になる円安についても週末円売り仕掛け人たちとZoomで意見を交換した。思わぬ利上げ鈍化論が勃発したことで格好の利益確定円買い・ドル売りの機会を提供してもらったとの反応が目立つ。その上で連戦連勝ゆえ心理的にも余裕があるので、145円台後半で新たな円売り・ドル買いポジションを醸成する目論見が透ける。「パウエル議長の金融政策が容易に変わるはずもない」との確信めいた見解が一貫して底流となっている。
確かに視界不良の中でひとつだけ言えることは利上げの終着点が4%にせよ、5%近くにせよ、少なくとも2023年前半まで高水準が継続ということだ。利下げはない。Higher longer(より高く、より長く)。このフレーズを市場はFRBから何度聞かされたことか。インフレは抑制の手を緩めるとぶり返す可能性があるので、根絶やしにするには効果判定できるまで高金利は維持するとの姿勢である。
中期的な円売りの姿勢については「試合は7回裏。後2回ほどでゲームセットだ。そろそろクローザーのウォーミングアップかな。」と割り切る発言が印象的であった。
かくしてNY金はじり安基調だが底値圏に変わりはない。FOMC後も年末までこの傾向は続きそう。中期的には基調がインフレの時代に突入して、インフレヘッジとしての金は買われよう。今が底値感と見る所以だ。
それから以下2本をYouTube豊島逸夫チャンネルで更新した。
2022/10/28 クレディ・スイスを襲った1.9兆円の取り付け騒動。元スイス銀行トレーダーの視点。
2022/10/28 円安どうなる。NY投機筋とZOOMで激論した。