豊島逸夫の手帖

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FRB新副議長、景気後退も覚悟でインフレ退治優先

2022年4月6日

昨晩はブレイナードFRB次期副議長の強硬引き締め発言で、金価格には下げ圧力がかかったが、結果的にそれほど下落せず、底堅さが目立った。結局ドル名目金利が上昇してもCPIが7%超、FRBが重視するPCEインフレ率でもコアで4%台ゆえ、ドル実質金利は大きくマイナス圏に留まることが、金利を生まない金には追い風となっている。

以下、ブレイナード氏の発言について詳報。
ブレイナードFRB現理事は副議長候補として議会承認待ちの立場だ。それゆえ5日の講演全文がFRBホームページに載った。更に発言文でも主語が「私」ではなく「FOMC」となり、FOMC参加者個人の意見というより、FOMCの考え方を示す形式になっていた。

かくして、パウエル議長を補佐する立場になった同氏はこれまで超ハト派のレッテルを貼られていたが、5日の講演では超タカ派に変身していた。議会承認のための議会公聴会での発言の頃から「インフレが米国経済の最大の問題」と語っていたので、ハト派色が薄まる予感はあった。しかしここまで具体的に公言するのは想定外だった。

5日の講演中にも前半で1979年のボルカー発言「制御できないインフレが経済成長、そして雇用にも最大の脅威」を引用したあたりから市場はざわついてきた。1960年代のバーンズ元FRB議長の「貧しき者がインフレの主たる被害者」との発言も引用された。年後半の中間選挙までにはインフレ退治に関して何らかの結果を出すことが、自らを副議長候補に指名したバイデン大統領への配慮とも映った。

そして講演が最後の「金融政策」に入るや、大胆な引き締め発言が相次いだのだ。
5月FOMCで本格的にFRB資産圧縮を始めること。必要なら0.5%幅の利上げも否定しなかったこと。3月FOMCの時点で発表されたFRB経済見通しに記された金利見通しより、強力な引き締めになると明言したこと。

単語の選択も強い表現が目立った。
「FOMCは」連続利上げを「念入り」に進める。「取り急ぎ」5月にも「急ピッチで」資産圧縮を開始する。あたかもFOMC決定事項の発表の如き言い回しだ。本日発表の3月FOMC議事要旨には、更に具体的な資産圧縮についての議論が明示されることの前触れとも読めた。市場とのコミュニケーションを重視する姿勢も見せているからだ。市場は既に「迅速な」中立的水準への利上げと2017~2019年より速いピッチの資産圧縮を織り込んでいるとも語った。既にここ数か月で30年住宅ローン金利が1%以上引き上げられたことにも言及した。

その市場の反応だが、米10年債利回りが2.45%台から2.55%台まで急騰した。対して2年債利回りは2.50%台から2.52%台への上昇に留まった(いずれも瞬間風速)。その結果逆イールドが順イールドに戻ったのだ。これは急ピッチの資産圧縮プログラムによりFRB長期国債保有量が減少することで、10年債利回りには上昇圧力がかかることを市場が先取りした動きと読める。対して政策金利に連動傾向が強い2年債利回りは、既に市場が急ピッチの利上げを織り込んでいるので10年債ほどには動かなかった。そもそも逆イールドを早期に解消して銀行経営も安定させるため、FRBは資産圧縮により10年債利回りを引き上げる可能性が一部の地区連銀総裁から指摘されてきた経緯もある。

株式市場は既に地政学的危機と利上げに備え、ポートフォリオのリスクを減らし現金保有を増やしてきたので、それほど大きな下げにはならなかった。引き続き本日の3月議事要旨発表に身構えている。12月FOMC議事要旨発表の後には1月6日の日経平均が844円急落した苦い記憶も鮮明に残る。ブレイナード発言は「前座」で、本番に備える姿勢だ。

外為市場ではドルインデックスが99.5まで上昇して、いよいよ100の大台に接近中である。

なお、筆者が注目したブレイナード発言は積極財政支出をインフレ要因のひとつと明言して、年後半には財政政策のインフレ効果が弱まると語ったことだ。バイデン大統領の看板政策を盛り込んだ200兆円規模の財政投入が、民主党議員一人の造反で未だに宙吊りになっており、一方で富裕層への増税案が提示される政治的状況を示唆している。市場の視点でもFRBの金融引き締め策の骨子が明らかになれば、次の関心事は財政政策に移るだろう。バイデン大統領の視点に立つと財政支出を膨らませればインフレ圧力が強まってしまう。増税案を通せばインフレ抑止要因となる。なお先週100万バレル規模の原油備蓄放出を敢えて今後6か月継続としたことも、インフレについて中間選挙までに何らかの結果を出すことを迫られているからであった。

金融引き締めと財政縮小を同時進行する羽目になったバイデン大統領は経済面でも綱渡りを強いられている。

さて、都内では桜が散ってきたが池上本門寺では未だ花見ができたよ。我が家の桜も未だ咲いているので、週末は友人を招いて花見会。皆、花より団子だったけど(笑)。

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2022年