2022年6月20日
株価は金価格に影響を与えるので、常に目配りが必要だ。
特に米国株価の底値を探る荒い展開は当分続きそうだ。
以下は日経マネー先月号の筆者コラム「豊島逸夫の世界経済の深層真理」の原文である。
株式市場、特に米国市場の異常なボラティリティーが常態化している。
この現象を現場感覚で「投機的ポジション調整」とか「マネー逆流」などの表現で説明を試みても限界がある。
ここは歴史的俯瞰の視点が必要であろう。
我々は今、間違いなく後世の歴史や経済教科書に残る事態の展開を目撃している。
コロナという未体験の疫病とウクライナ戦争に発する米ロ新冷戦危機の真っ只中で、金融政策が超緩和から超引き締めへ急転換を強いられているのだ。
危うい。
市場では昨年パウエルFRB議長がインフレを「一時的」と見て、金融政策対応が後手に回ったことが問題視され批判されている。「痛恨の判断ミス」とされる。
筆者も同意だが、とは言え誰がFRB議長職にあろうとこの難局を無事にナビゲートするのは不可能に近く、パウエル氏に同情も禁じえない。同氏は貧乏くじを引いたのかもしれない。
そこで株価が大暴れするのはFRBへの不信感が強まっているからだ。
超緩和時代には「困った時のパウエル頼み」で、株価が暴落を続ければ、追加緩和の助け舟を出してくれるという、所謂「パウエルプット」と呼ばれるFRB依存症が染みついた。「FRBには逆らうな」と言われた。
それが今や「FRBを疑え」となってきた。
パウエル氏も金融引き締め司令塔として市場の「敵役」に転じている。
振り返れば、昨年の段階で2022年3月利上げ開始という議論はセントルイス連銀ブラード総裁が主導するFOMC内タカ派の少数極論と扱われていた。その「まさか」のシナリオが急速に現実味を帯びたのは、昨年11月になってパウエル氏が「一時的ではない」とちゃぶ台返しの如く見解を変えた時だ。2022年利上げ予測も年間2回程度から、みるみる4回、6回と増えていった。利上げ幅予測も当然の如く0.25%刻みが前提とされていたが、0.5%、更には0.75%と拡大してきた。FOMC内のハト派主導格とされるNY連銀ウイリアムズ総裁やサンフランシスコ連銀デイリー総裁、そして超ハト派のブレイナードFRB副議長候補までが、ブラード氏の提唱に同調の発言をするようになった。その過程ではFOMC内部の亀裂も露わになり、まとめ役としてのパウエル議長のリーダーシップが問われた。しかもパウエルFRB議長の二期目の指名が議会で紛糾して、公の席に立つパウエル氏の肩書が「FRB臨時議長」と異例の表示になった。
このFOMC内の地殻変動だけでも株価は神経質に反応する。
加えて、パウエル氏の発言も市場の緊張感を高めた。
パウエル語録は枚挙にいとまがないが、筆者が最も重視するのは「meeting by meeting」との表現。利上げはFOMC会合ごとにデータ次第で決めるという姿勢だ。全てのFOMC会合が「ライブ」とも語っている。しかも「nimble=機動的に」動くという。この単語はウォール街の流行語になったほどだ。以前は「patient=忍耐強く」待つというスタンスだったので豹変と言える。
こうなると市場はFOMCの会合ごとに今回の利上げはあるのか、あるとすれば0.25%なのか、0.5%なのか。0.75%も記者会見では検討されていないと述べたが、中国ロックダウンやウクライナ戦況次第では急遽議論される可能性は残る。それほどに市場は疑心暗鬼なのだ。
そもそもプーチン大統領と習近平国家主席の本音など、ロシア・中国専門家が様々な見解を述べるが、ひとつ確実なことは世界中で正確に見通せる人は誰もいないということだ。
更に悩ましいことはFRBが景気を悪化させてもインフレ退治を優先する姿勢と見られることだ。本来ならば景気後退を誘発せずに利上げでインフレを封じ込めるところだが、今回のインフレは新型でかなりの荒療治が必要となる。需要過多と供給目詰まりの複合構造だ。そこで0.5%利上げを3回連発されて米国経済は耐えられるであろうか。この政策効果が発揮されるまでタイムラグがある。利上げ3回目終了後、2か月ほどで効果が出るかもしれないし、2回目で早くも景気が減速する可能性もある。IMFの見通しでも米国経済は引き締め前から既に減速している。
パウエル氏は金融政策を刀に例え「切れ味は悪い」と語っている。それほどに効果測定が難しいということだ。ゆえに利上げやり過ぎ、或いは利上げ不足のリスクが付きまとう。
この難局に米国個人投資家はどのように対応しているのか。
たまたまFOMC後に米国経済テレビ局CNBCが視聴者アンケート調査を実施した。そこでは54%の回答者が「現金保有」と答えていた。
一方、プロはと言えば、世界最大の資産運用会社ブラックロックのCIOリーダー氏は現金保有を50%も増やしているという。メディアに出てフランクに語るのだが、あっさり「分からないから」と述べている。
要は、まともなファンドはポートフォリオのリスクを減らしている。
日々の株価乱高下は小者の超短期ファンドが暴れる結果なのだ。
日本の個人投資家にも教訓となろう。世界の投資家が迷って困惑しているのだ。今は次の一手をじっくり考え勉強する時期と言えよう。市場の方向性が見えた時には「nimble 機動的に」動くために。