2022年5月27日
これは実話である。
筆者は「団塊の世代」ゆえ、後輩たちから「資産運用」について個人的アドバイスを請われるケースが多い。
その中で「金投資」に強い関心を示すのが、知り合いの日銀OBたちのグループだ。既に金購入を決めているので、質問は具体的で「いつ、どこで買えばよいか」。
筆者が「なぜ金に興味を持つのか」を問うと、「量的緩和政策に直接関与してきた。円はいくらでも刷れることを職場で実感してきたので、何か刷れない資産を模索して通貨の原点である金に回帰した。」と語る。「虎の子の退職金を円では持ちたくない」とまで言い切る。通貨の番人を40年務めあげた人物のコメントゆえ、筆者の背筋がヒンヤリする。
財務省OBの知り合いも、退官後に金を買いたがる傾向がある。
キャリア組として中核にいた人物が「日本はいつかジンバブエになる。」と真顔で語る。トンデモ本に感化されたわけでもない。平然と「自分は日本国のバランスシートを作成してきた。退職金を円で保有するリスクを痛感している。」と語る。
いずれも親しい仲ゆえ、本音が飛び出す。「豊島さん、これからは金の時代ですよ」と彼らから言われると「アンタに言われたくないよ」と返してしまう。有事の金や金価格高値更新のニュースもこのおじさんたちのハートを鷲掴みにしたようだ。筆者は資産運用で主役は株、金は脇役。有事の金のドカ買いは悪魔の選択と冷ややかに諭す。
何とも考えさせられる現象である。
これとは異次元だが、似たようなエピソードが米国にもある。
グリーンスパン元FRB議長が退官後、講演料が当時で10万ドル近くに跳ね上がった。あるヘッジファンドの国際会議で講演した時、事務局が「先生、講演料ですが、どの通貨で送金しましょうか。ドル、ユーロ、円、どの通貨でも結構ですが」と持ちかけると、一言「ゴールド」と言ったという。某著名キャスターが番組で紹介した話である。
金の世界では「量的緩和による通貨価値の希薄化」が「金が買われる理由」のひとつとされるが、その実態を筆者は体験してきたわけだ。
今や米国では量的引き締めの時代に入ったが、日本では量的緩和が継続されている。今後中央銀行の資産圧縮が進めば、このような事例はなくなるのか。なくならなければ量的引き締めの実効性が覚束ないことになる。筆者にとっては金融政策の有効性を判断するひとつのよすが(縁)になりそうだ。