2022年2月21日
北京五輪終了を待ったかのように、週明け円建て金価格が史上最高値を更新した。
ウクライナ緊迫とインフレと円安の今日「イッポン!」という感じ。総じて地政学的要因は今がピークだろう(ドル建て金価格はKITCOグラフ青線、緑線の如く1900ドル近傍)。
ウクライナ情勢は両サイドともに瀬戸際政策(brinkmanship)を続けている限り、戦闘突入の可能性を誰も否定できず、市場の緊迫感も続きそうだ。しかしこんなに凄いリスクオフ状況が長続きするとも思えぬ。
中期的に年内という視点で見れば、早晩市場警戒感もピークアウトする。地政学的リスクによる金買いも一服しよう。
しかし、それで金上昇が終焉とはならない。3月15~16日には、これも歴史的FOMCを迎えるからだ。恐らく0.25%幅で利上げ、同時にQT(資産圧縮)についても概要が公開されよう。FRBの姿勢は3回ほど連続して利上げ後、点検して年後半の利上げについては決めることになりそう。ところが市場は0.5%幅とか、利上げ7回までを織り込みつつある。そうなるとサプライズ要因はセントルイス連銀ブラード総裁率いるタカ派への傾斜を強めたFOMCが一転ハト派色を強めること。即ちインフレにピークアウトの兆しが強まり、利上げ回数も想定より少なくなるシナリオだろう。先週金曜日には筆者注目のNY連銀ウイリアムズ総裁とブレイナード副議長候補が発言した。両者ともFOMC内での存在感は強くハト派である。彼らはとりあえず3回ほどは利上げするにしても、その後のことは現時点で視界不良ゆえ、6月くらいに点検した上で年後半の利上げ回数を決めればよいとの意見だ。クリーブランド連銀メスター総裁(タカ派)も同意見だ。
専門的な話になるが、今は政策金利に連動する2年債イールドが昨年11月以来100ベーシス(1%)も急上昇して利上げを織り込んでいる。対して景況感を映す10年債イールドは2%の大台達成後、一服気味だ。その結果、急速にイールドカーブの平坦化が続いた。更に10年債は外貨準備や年金運用などで根強い買い需要があり、これもイールドを抑え込む。一方、QT(FRBの資産圧縮)が始まり、FRB購入・保有の10年債も減らされると、これは10年債イールドの上げ要因となる。イールドカーブは平坦化すれば不況の兆しで金は買い。スティープ化すれば(立ってくれば)経済がソフトランディングの兆しで金は売り。
それから重要なことはドル実質金利が上がっていること。不況感も随所に見られるので、市場の期待インフレが盛り上がらないことが要因だ。ドル実質金利が上がっていることは金利を生まない金には逆風となる。それでも金価格が上昇しているのは、市場が経済減速を見込んでいるからだ。
なお、金融政策面ではパウエル議長が引き締めで米国経済をソフトランディングさせることに成功すれば金の出番はなくなる。一方、引き締め過ぎて米国経済がハードランディングすればリスクヘッジとしての金の出番。
かくして、金融政策と金利そして資産圧縮が中期的には金に影響を与え続ける。対して地政学的リスクは短命に終わりがちだ。
最後に、円金利がやっと上昇してきたものの円安傾向は変わらない。ドル金利上昇速度の方が遥かに速い。更にウクライナ情勢に影響される欧州のユーロが売られ、ドル高に振れがちだ。円建て金価格には為替面からの上昇圧力もかかる。
【参考記事】
市場、リスク回避再び NY株、今年最大の下げ・金は最高値うかがう:2月19日 土曜日 日本経済新聞朝刊3面
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB182GG0Y2A210C2000000/
円建て金先物が最高値、1年半ぶり リスク回避と円安で:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB16BI90W1A111C2000000/
マーケットアナリストの豊島逸夫氏は「地政学リスクでの金買いは、過去の事例を見ると長続きしない。ただ、ロシアからのエネルギー供給への懸念などでインフレ懸念が強まれば一段高となる可能性もある」と話す。