豊島逸夫の手帖

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ビットコイン暴落、金に換金売りも

2022年615

先週金曜日の米消費者物価指数8.6%発表までは、今回6月と7月のFOMCで0.5%幅の利上げがほぼ確実視されていた。

しかし、同発表後に事態は急変した。唐突に0.75%幅利上げ説が市場に流れたのだ。マーケットはハチの巣をつついたような大騒ぎになっている。名門ウォートン・ビジネス・スクールのシーゲル教授やJPモルガンは1%幅利上げの可能性にも言及している。

そもそも誰が言い出したのか未だに正確には分からない。FOMC前のブラックアウト期間(参加者発言自粛期間)ゆえFRB高官が言い出したのではない。ジェフリーズのアナリスト発言が記録に残っている程度だ。その後ゴールドマン・サックス、JPモルガン、バークレーズ、ウエルズ・ファーゴなど、大手金融機関が相次いで0.75%予測に切り換えた。

CPI発表前まではインフレ統計にピークアウトの兆しが見られていたので、FRBにとってもサプライズであった可能性は否定できまい。常々パウエルFRB議長は「データ次第」、「全てのFOMC会合がライブ」、「会合ごとに決める meeting by meeting」などの発言でヘッジをかけていた。それゆえ想定外のCPIで利上げ幅が変更される可能性は充分にある。最新のNY連銀消費者調査でも家計が感じる向こう1年のインフレ期待が4月6.3%から5月6.6%に上昇したことが材料視されている。そこで民間のアナリストレポートやウォールストリートジャーナル、米国CNBCの報道で相次ぎ0.75%説が急浮上してきたと見られる。市場ではパウエル議長の「インフレは一過性」発言に続き、またも見通しを誤ったのかとの意地悪な見解も聞かれる。

いずれにせよ、FOMC直前にこのような大きな金融政策修正予測が生じるのは異例中の異例だ。

かくして、日本時間明朝発表のFOMC声明文では0.75%利上げが明記されると見られている。同時に発表されるドットチャート(FOMC参加者の金利予測)にも強い関心が寄せられる。更にパウエル議長記者会見が「くせもの」扱いされている。前回の記者会見では0.75%利上げの可能性について聞かれた時、「議論のテーブルに載っていない」と否定していたからだ。QT(量的引き締め)についても今回は詳細な議論がなされるだろう。その上でパウエル議長がどのように受け答えしても市場の疑心暗鬼は容易に消えないだろう。短期投機筋がまず仕掛け、初期反応が出るだろうが、市場の主流のプレイヤーたちは慎重に材料の消化に時間をかけるであろう。そこで第二波の反応が顕在化することになる。株価底打ちか本格弱気相場到来か。金は1800~1900のレンジを抜けるか。今回ばかりは丁半博打の様相で、「市場に聞け」ということになる。過剰流動性相場の時には「FRBには逆らうな」と言われたが、流動性圧縮相場に急転換するや「FRBを疑え」という姿勢に変化している。それゆえボラティリティーは激しくなろう。大手のファンドも多くが現金ポジションを増やし、ポートフォリオリスクを減らして、今回のFOMCを待ち受けている。それゆえひとたび一定の方向性に市場のコンセンサスが収斂すれば、かなり大幅な資産価格変動が見込まれる。いつまでも現金ポジションを増やすだけでは顧客からそっぽを向かれる。とにかく動かねば資産運用の商売は成り立たない。但し視界不良ゆえ普段は中期運用するファンドも売買回転が速くなろう。

不確実性が極めて高い地合いだが、その中で継続するトレンドはドル高・円安と見られる。米国政策金利(フェデラルファンドレート)が年末までに4%に接近する可能性は未だ織り込まれていない。それゆえ日米金利差の更なる拡大で140円も視野に入る。そもそもドルインデックスが105の高水準に達して、更にドル先高観が根強い。日銀が世界の主流に逆らってドル売り・円買いの介入に万が一踏み切っても勝算は見込めまい。日銀対ヘッジファンドのせめぎ合いに持ち込まれれば、それこそヘッジファンドの思う壺となりかねない。

円売りトレードはNY市場でも「最も混み合うトレード」のひとつとして注目を浴びているのだ。

なお、ビットコイン先物価格暴落で追加証拠金支払い(マージンコール)のために金を売る、所謂「換金売り」も目立ってきた。
一昨日の日経YouTubeセミナーでも仮想通貨と金の関係について質問があった。
ビットコインはインフレヘッジをセールストークに使っていたが、今回の暴落で化けの皮が剥がれた感じだ。

2022年