2022年6月27日
前回ロシアと金について書いたが、週末に新たな展開があった。
G7でのロシア産金の禁輸措置だ。
ロシアの金生産量は年間330トンで世界第二位。中国が2トン差で第一位。但しパラジウムと異なり、金鉱脈は米国、オーストラリア、カナダ、ペルーなど、所謂「環太平洋火山帯」に広がるので、ロシア産の輸出が止まっても生産代替の余地は充分にある。ロシアの生産シェアは10%程度。ロシア抜きでも金市場は困らない。金価格高値圏で実需も少ない。G7としてはアナウンスメント効果狙いか。欧州は金に関してロシアとの関係が深いので、エネルギー関連から金までを米国の言いなりに妥協することには抵抗感もある。
更に、経済制裁により既にロシアは外貨決済から隔離されたため、ドル建て国際商品の金の市場売却や輸出はできないことから、事実上禁輸同然となっている。金業界も既にロシア産は流通している在庫以外は事実上取り扱いを自粛中だ。せいぜいG7としてはアナウンスメント効果狙いか。
気が早い投資家は「すわ、金上昇か」と色めき立っているが、商品先物業者のセールストークにも使われそうなネタゆえ、ご用心あそばせ。
あり得るシナリオとしては、親ロシアの中国・インドが世界第一位・第二位の金消費大国ゆえ、原油同様ロシア産を市場外の直接相対取引で買い受けること。ロシア側の立場では国内生産量の年間330トンに加え、外貨準備とする2298トンの公的準備金を輸出もできずに抱え込む成り行きになっている。仮に中国・インドが新産金をロンドン市場経由で買う必要がなくなれば、金価格下落要因となろう。
なお、金禁輸には伏線があった。
「ロシア、スイスに金を輸出 『姿みせぬ買い手』の怪」という見出しで先週金曜日の日経電子版でも報道されたのだが、↓
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB244WS0U2A620C2000000/
スイス通関統計で3トンほどの金がロシアからの輸入として明らかになっていたのだ。このような事例に反応してホワイトハウスが動いた可能性はある。
筆者が個人的にスイス銀行チューリッヒで上司から「貴金属ディーラーとしてロシアとも付き合え」と指導されたことを思い出す。深夜にチューリッヒのバーでウォッカを飲みつつ、ロシア人の「友人」と金とパラジウムを売買交渉したものだ。この深い関係は今でもチューリッヒで続いていると知らされ驚いた。
スイスという欧州のど真ん中の小国は生きる知恵として秘密銀行口座など、敢えて「やばい」商売も国益重視で受けてきた歴史がある。ウクライナ侵攻があっても、この関係が解消することはあるまい。経験者の実感である。