2022年11月17日
何だか仮想通貨専門家にされつつある(笑)。
そこでデジタルゴールドと言われ、何かと金と比較される仮想通貨についての話。
大手仮想通貨市場FTXと姉妹会社アラメダの破綻は、他の仮想通貨会社への伝染と当局の規制強化の段階に入った。
先行きは暗い。米国証券取引委員会委員長のゲンスラー氏は、このように述べている。「(FTXは)顧客のマネーを集め、それを担保に借り入れ、トレーディングの原資としていた。時として顧客に不利になる売買もあった。」
顧客が預けたマネーの流用が確認されれば一発レッドカードだ。
ゲンスラー委員長はMITで仮想通貨の教鞭を執っていた「プロ」である。当該業界の裏表を知っている人物だからこそ、不正行為には憤りを隠さず、特に厳しい。
とは言え、バハマ籍の企業の精査となれば一筋縄では行かぬ。
100万人を超すとされる債権者は結果が出るまで忍耐を覚悟せねばならない。
そもそも中央銀行を信頼せず、独自の仮想通貨を創成したのだが、結果は中央銀行からの救済も期待できない成り行きになった。
更に、前例のない「トークン」が使われていることも精査を難しくしている。日本語で「電子証票」とされるが、欧米ではデジタル通貨の範疇に入る。SECのゲンスラー氏は「有価証券」と認定している。CFTC(商品先物取引委員会)は、仮想通貨ゆえコモディティーだと主張する。かくして未だルール整備されていないトークンをFTXはFTTと銘打ち、大量に発行した。かつ、かなりの量のFTTを簿外取引でアラメダ口座に移した。取引所としてのFTXは新仮想通貨をメニューに取り入れ、積極的にトレーダーの売買を促した。ディスカウントで売ったり、100倍近いレバレッジをかける高リスクトレードも容認することで売買高は急増。取引所の手数料収入も急増。アラメダ保有のFTTの価値も急騰。FTX創始者や最優良顧客には発行時にIPO株の如く割り当てていた。FTXにはブラックロック、カナダ・オンタリオ州年金基金、シンガポール政府系ファンド、そしてソフトバンクなども直接、間接に出資したことで社会的認知も高まった。
米国有名スポーツ選手を「グローバルアンバサダー」に指名して、派手なPR活動も展開した。FTXの若手CEOサム・バンクマン・フリード氏はイニシャルを取りSBFと呼ばれ、環境問題についても発言して、一躍若者のアイコン的存在にもなった。全てはトークンFTTの上に成り立っていたのだ。
そのFTTへの信頼性が揺らぐキッカケになったのは、マクロ的視点では利上げとQT。財務環境が一変するとCFOもいない財務基盤の脆弱性が露わになった。ライバル社のバイナンスがいち早く保有FTTを売却することで同価格が急落。そこで別名コーポレートレイダー(乗っ取り屋)と呼ばれるバイナンス社CEOジャオ氏(ニックネームCZ)は、FTX救済案を提示したが数日後の撤回。そこから投資家のFTX社取り付け騒動が勃発した。トークン価格も暴落。レバレッジをかけて売買していたトレーダーたちは追加証拠金が払えず、株や債券の換金売りに走った。FTX社もついに破産に追い込まれた。
市場ではマネー縮小の時代に入るやSPACの帝王と呼ばれた人物の破綻、英国年金危機、クレディ・スイスの財務不安など、象徴的出来事が相次いでいた。次は銀行監督官庁の目が行き届かぬシャドーバンクか、簿外取引の類かと身構えていたが、仮想通貨破綻がその典型事例になってしまった。監督官庁の管轄外で、簿外取引で、グループ企業で、カネを回すというFTXは、まさに市場の心配が杞憂ではなかったことを印象付けた。
冷ややかに見れば、過剰流動性相場で「なんでも上がる相場」の恩恵を享受した企業が、今や罪滅ぼしの期間に入ったと言える。
仮想通貨市場規模は限定的ゆえ、世界を揺るがすシステミックにはならないがリーマンショックと相似点もある。予期せぬところに予期せぬタイミングで監督官庁も捕捉できないリスクが顕在化したからだ。一時は中小破綻同業者の救済に当たったSBF氏はリーマンショック時にベアースターンズ証券を救済買収したJPモルガンに例えられ「仮想通貨業界のJPモルガン」とまで持ち上げられた。
「FTXショック」は「仮想通貨市場のリーマンショック級」だが、実態は金融政策が転換すると生じるリスクの一例と見るべきであろう。
仮想通貨業界もこれで滅ぶことはないが、QTの時代に合った市場規模に縮小してゆくと見る。