2022年4月19日
昨日本欄で2000ドル接近中と書いたが、その後NY市場で瞬間的に2000ドルを突破した。しかしその後一転NY金は急落。1970ドル台まで沈んだ。
やはりこの高値圏に入るとボラティリティー(価格変動)も荒くなる。実需不在でプロ同士の空中戦となる。2000ドル大台突破によりプログラム売買が利益確定売り注文を連鎖的に発動した。金オプション市場でも、例えば1900ドルで金を買う権利(コールオプション)を投資家が行使し始めると、オプションの売り手はヘッジのため売らざるを得ない。再度2000ドル挑戦の局面もあろう。しかし歴史的高値圏が値固めされる過程は平坦ではない。
なお、昨日のNY時間では午後にドルインデックスがドル安に転じると金価格も反落した。ドル高=金高、ドル安=金安の構図である。
では127円台に達した円安はいつまで続くのか。
以下に詳説する。
今ウォール街最大の関心事はFRBの利上げ連発が景気後退を招くリスクだ。先週14日に「戦争終結の手助けを」と中国に呼びかけたイエレン財務長官の講演でも市場の話題になったのは質疑応答で「財務長官として金融政策についてコメントする立場ではない。」と断りつつ、「物価と雇用の両方を満たすことは不可能に近い組み合わせだ。手腕と幸運が必要である。」と明言した。前FRB議長の発言ゆえ説得力がある。
民間の著名有識者となると更に議論がエスカレートしてくる。
テイラールールでお馴染みのテイラー氏(スタンフォード大学)は5%の利上げ、サマーズ元財務長官は4~5%の利上げが必要と論じる。
米消費者物価上昇率が8%を超える時に政策金利が0.25%~0.5%の超緩和レンジに留まるなどは過去にも例がない。しかも今回はインフレ予防ではなく、既に8%超に達したインフレを抑え込むわけだ。
お馴染みタカ派主導役のセントルイス連銀ブラード総裁も日本時間本日午前5時台に米国CNBCのFEDウォッチャーであるリースマン氏とテレビ生出演で質問に答えていた。利上げ幅は0.5%では不十分。0.75%幅が必要ではないか。最終的に少なくとも3.5%の利上げが必要だと語った。市場は利上げを織り込んでいるとも論じた。ドル金利は2%台まで上がってきた。それゆえ更なる引き締め強化に米国経済は耐え得るとの判断である。労働市場も逼迫している。求人件数が1130万件に達した。人件費は上昇傾向で企業もコスト増を転嫁せざるを得ない状況だと論じる。
対して市場は労働参加率が若干改善したものの、依然コロナ前の水準を下回る62.4%に留まることを懸念材料として注視する。
FRBが利上げ路線に転換したものの、早晩景気後退が顕著になり緩和に逆戻りを強いられる「ハト派への転換」のシナリオも市場内には流れる。
結局、米国経済が未知の領域で軟着陸できるか否かは年央まで不透明な状態が続きそうだ。米国株価に対する弱気論がくすぶり続けるであろう。
そして米利上げの余波は円安となり日本経済にも影響が及ぶ。125円~130円の予想円安水準がいつまで続くのか。パウエルFRB議長がどこまで利上げを強行するのかとの争点が最大の注目点となろう。仮に利上げにより米国経済が景気後退に陥れば、中間選挙を控え、引き締め強化も転換を迫られよう。中期円安トレンドの転換が起きるとすれば今年の秋が要注意である。
なお、短期的には円安局面、円高局面を繰り返しつつ、長期的には円安トレンドが続くであろう。日本の人口動態、日本企業の非生産性などに注目した日本の見切り売り的な円安シナリオを危惧する。
筆者の体験上、日本人が資産の一部を円から逃避して金を保有する意味を今回ほど強烈に思い知らされたことはない。ファイナンシャルプランナーは外貨建て資産というと外為差損リスクに注意しましょうと説くが、円を資産として持つことのリスクを説くFPにお目にかかったことはない。