豊島逸夫の手帖

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雇用統計、金価格の反応は?

2022年10月7日

NY金市場はFRBに「3つのP」を期待している。いずれも利上げ警戒感弱まり、ドル金利低下・ドル安・金高のシナリオだ。
まずPivot。直訳すれば旋回。ここでは金融政策緩和への転換を意味する。FRBインフレ退治策の副作用として起こり得る経済減速・不況入りで、2023年中には利下げ或いはQT(量的引き締め)減額に追い込まれるとの見立てだ。
次にPause。利上げの一時停止。3回連続で0.75%利上げの劇薬を接種した上で、11、12月には計1.25%の利上げをすることで年末政策金利水準は4.4~4.6%に達することをFOMC参加者19名の内で17名が予測している。果たしてこの荒療治が効いているのか。金融政策効果にはラグがある。それゆえ利上げを一時停止して効果を点検すべきとの見解が民間には根強い。
そしてPut。ここでは株価下落をヘッジするプットオプションを意味する。金融超緩和時代には景況感悪化や株価暴落など、市場が危機的状態になる可能性が強まれば、パウエル議長が助け舟を出してくれた。それを市場ではパウエルプットと命名した。ジャクソンホールでのパウエル議長強弁により、もはや「困った時のパウエル頼み」は望めぬと市場も諦めていた。そこにイングランド銀行が利上げを維持しつつ、時限措置ながら量的緩和再開という矛盾した金融政策ポリシーミックスを強いられる衝撃の一件が突如起きた。
オーストラリア中央銀行が0.5%幅利上げは必至と見られていたが、0.25%幅に縮小との事例もいざとなれば副作用を回避するため中央銀行は引き締めに手心を加えるとの期待を生んだ。その矢先にクレディー・スイス財務不安をフィナンシャルタイムズが報じ、英国年金危機の可能性も論じられ、市場の不安心理が高まった。米国内でもQTの副作用として短期金融市場が逼迫するリスクが指摘され始めた。2019年にレポ取引の市場で資金需給が逼迫し金利が急騰。これを受けてFRBがレポ市場への臨時資金供給を実施した事例が想起されたのだ。かくしてクレジットイベントリスクが生じれば、FRBが時限措置ながら利下げなどの緩和再開に追い込まれる可能性がPutという単語には込められているのだ。
ホワイトアウト(白い闇)に近い視界不良の中、市場はすがる気持ちでFRBからの救いの手を期待している。

しかし、6日にFRB高官が相次いでその可能性を否定した。
まず、ミネアポリス地区連銀カシュカリ総裁が「インフレが確実にピークアウトして、願わくは下落するまで、私はPauseを宣言するつもりはない。」と断言した。
更に、アトランタ地区連銀ボスティック総裁も「市場に2023年には利下げとの強い観測があることは承知しているが、私は早まるなと言いたい。緩和への転換は論外。」とにべもなく市場の期待を切捨てた。同氏は1960年代後半から1970年代にかけて、FRBが「ストップ&ゴー」、即ちインフレ退治のための引き締めで失業率が高まり、突然方向転換して、早まった緩和に動き、結局インフレが長期化してしまった事例を挙げた。その後始末のため80年代初期に当時のボルカーFRB議長が強力な引き締めで、米国経済は不況に突入した。この一連のFRBの過ちを繰り返してはならない。「FRBは失業が増えても、インフレ退治路線から転換の誘惑に抵抗せねばならない。」とも述べた。
この発言はパウエル議長の「ボルカー氏が引き起こした非常に高い社会的コストの類を我々は回避できる。」との発言を踏襲したものだ。
パウエル議長は失業率が予想より上振れしても、物価安定の方を重視すると明言している。インフレマインドが民間で当たり前になることを最も恐れていることも語ってきた。そこまで浸潤すると、その国民心理を除去するために想定外の時間を要する結果になるからだ。

このような背景があるからこそ、今晩発表される雇用統計には常になく注目が集まる。更に13日発表される米国CPIも重要視される。
雇用統計は結果が良ければ良いほど市場の利上げ警戒感は強まる。ドル高・金安が予想される。逆にほどほどの悪い数字が並べばドル金利安・ドル安で金上昇が見込まれる。外為市場では前者は円安、後者は円高が予想される。具体的にはバイデン大統領は月次新規雇用者増加数が15万人程度が望ましいとウォールストリートジャーナルへの「私のインフレ退治策」と題する寄稿文で明示している。今晩の雇用統計の事前予測は25万人程度だ。しかし中間選挙を控えた大統領が、雇用の増加をインフレ退治優先とは言え「労働市場の過熱」と国民に言えるだろうか。失業率もFRBは9月発表の経済見通しで今年末3.8%、2023年は4.4%と先月雇用統計3.6%からの上昇を予測している。今回の雇用統計はほぼ同率が事前予測されている。
果たして今後の失業率悪化をインフレ退治策とする経済政策で選挙に勝てるものか。政治と経済のロジックの狭間で現米国政権は袋小路に追い詰められている。政治的独立が保証されているはずのFRBにしても中間選挙の前週11月1~2日にFOMCを開催するので何らかの判断を迫られる。

なお、FRB批判の先鋒に立つサマーズ元財務長官はインフレを抑え込むには5%以上の失業率が5年続くことが必要とまで論じている。
かくして、アカデミックな議論が飛び交う中で、市場は雇用統計の判定基準も定まらず、政治的要因も読み切れずに揺れている

さて、昨日はマガーリ@自由が丘で季節のポルチーニ茸を囲み「仕事の打ち合わせ」を行った。やはり私は松茸よりポルチーニの方がいいな。写真には無いがポルチーニのリゾットも旨かったよ~。
3595ポルチーニ茸①.jpg

3595ポルチーニ茸②.jpgおいしいイタリアンを食べながらの打ち合わせはクリエイティブな案も出やすく結果も良いもの!であろう(笑)。

2022年