豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 有事対応の議論を封印してきた日本  
Page3488

有事対応の議論を封印してきた日本  

2022年425

今日は先週の「北海道、ロシア軍事侵攻」の可能性についての続き。

ロシアのウクライナ侵攻は、今やテレビのワイドショーでも詳細に報じられる国民的関心事だ。軍事・ロシア専門家たちが入れ替わり戦況を伝えるのだが、「それで日本はどうする」という話にはならない。戦後の日本で戦争の議論はタブーだからだ。筆者も長いメディアとの接点で日本の有事について論じると、即「そんな議論は好戦的だ。戦争ハンターイ!!」の大合唱となり、その場で思考停止になる体験をしてきた。ワイドショーが日本の有事対応をテーマにすれば、即タブーに触れ、抗議の電話が局にかかってくるのが怖いのだろう。

とは言え、さすがに昨今、台湾有事、北朝鮮ミサイル着弾、ロシアの日本領土侵攻の可能性に関する記事が出始めた。

今日の日経新聞朝刊でも首都圏が武力攻撃を受けた時の避難先(シェルター)としての地下鉄駅施設が挙げられていた。たしかにウクライナでは地下100メートルの地下鉄の駅が避難所と化している。ところが東京の地下鉄は地下40メートルの都営大江戸線しか使えないという。新旧地下鉄が交差する青山一丁目駅上のツインタワーにワールドゴールドカウンシルがあったので、筆者は銀座線と大江戸線の深さの違いを毎日感じていた。大阪府が指定した地下鉄駅も地下30メートルに過ぎないという。

台湾有事に関しては、中国が台湾近海に戦力を集め、米国も大規模な軍隊を周辺に派遣する場合、米中が衝突して米国が攻撃を受ければ、日本側は集団的自衛権を行使できる「可能性がある」程度だ。

北朝鮮に関しては、ミサイルの住民避難訓練は2018年6月が最後だという。

筆者はかねがね「有事への備えは平時から」と説いてきたが、今の日本は平時には有事対応の議論さえも憚られることを痛感してきた。

ウクライナで日本国内の論調もさすがに変わりつつあるが、それでもメディアの扱いは「恐る恐る」番組が炎上しない程度にとの配慮が透ける。

ウクライナのゼレンスキー大統領が、ロシアの軍事侵攻を日本の真珠湾攻撃に例えたこともある。日本は痛いところを突かれたが、さすがに同大統領の日本国会向け演説では触れられることはなかった。

しかし、米国内では未だに何かにつけ「リメンバーパールハーバー」と語り継がれる。筆者は海外で「日本人扱い」されてこなかった(苦笑)せいか、遠慮ない真珠湾の恨みに接してきた。対して日本国内では「リメンバーヒロシマ」と語り継がれる。パールハーバーのことはできればフォゲットしてもらいたい(忘れてほしい)との本音が透ける。
この認識の溝は容易に埋まらない。

今朝の記事で筆者が共感した部分は「日本は前例のない危機に立ちすくみがちだ。最悪の事態に目をつむり、必要に迫られるまで動こうとしない」。

陸続きの国境線がない島国内の意識がウクライナ戦争でどこまで変わるのか。米ロ新冷戦が危惧される時、目先の参院選を視野に動く永田町を見るにつけ限界を感じている。

2022年