豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 米利上げ7回、0.5%説は現実的か
Page3433

米利上げ7回、0.5%説は現実的か

2022年2月1日

利上げ7回とか、一気に金利を0.5%刻みで上げられては金利を生まない金にはツライ。そこでそれらの説をまとめて検証してみた。

FOMCパウエル記者会見後、欧米大手金融機関が相次いで利上げ予測を引き上げている。
特にバンク・オブ・アメリカのエコノミスト、エサン・ハリス氏は年内7回利上げ説を唱えている。極論の如く見えるが、同氏がテレビ生出演で語るのを聞くと絵空事と切り捨てることはできないと感じる。「まず3月と5月に利上げした上で、後はFOMC会合ごとに点検して利上げするか否かを決めればよい。FRBは既に対応が後手に回っているので、インフレの根強さと労働市場の逼迫を考慮すれば、結局年内は毎回利上げということになろう。四半期に1回ではFRBが出遅れた分を取り戻すのは到底無理だ。」と語る。同氏の人柄は極めて温厚で、話しぶりも落ち着いているので傾聴に値する。

次にゴールドマン・サックスは3月、5月と連続利上げ後、6月にQT開始。7月と9月に再び連続利上げの後、10-12月期は通常の四半期に1回の利上げペースに戻すと予測している。その理由としてFRB首脳陣がアグレッシブな引き締めを許容する姿勢を明確にしていることを挙げる。

更に先週末からFOMC参加者の地区連銀総裁からも発言が出始めた。
まずアトランタ連銀ボスティック総裁がフィナンシャルタイムズとのインタビューに応じ、ベースシナリオは利上げ3回だが、データ次第では年内7回連続利上げや利上げ幅0.5%刻みもあり得ると語った。
「形だけFOMC会合を開催して、何も実行しないのでは、私は良しとしない。」とも述べている。
なお、FOMC後の異常な株価変動については「緩和縮小から引き締めに移行する時期ゆえ、そのような市場反応は当然で合理的かつ適切と言える。」と語っている。
利上げが景気後退を招くリスクについては現在の金融政策が依然緩和的であり、緩和度を引き下げている段階で、まだ引き締めには至らないことを強調した。政策対応の余地があることを示したと見られる。
なお、同氏はFOMC内でタカ派である。

同じタカ派のカンザスシティー地区連銀ジョージ総裁は積極的資産圧縮で利上げペースは穏やかに済むとも語っている。

ではハト派はどう見るのか。
FRB副議長職を巡りブレイナード氏の対抗馬と見做された、ハト派代表格のサンフランシスコ連銀デイリー総裁は「確かに3月利上げに備えている。しかしその後はデータを見てから判断したい。まずはオミクロン株がどうなるか見ようではないか。」とかなり抑え気味の発言だ。

同じくハト派のリッチモンド連銀バーキン総裁はテレビ出演で利上げ回数やQTについて特に言及しなかった。

未だハト派とタカ派の間には相当の温度差があるようだ。パウエル議長のタカ派的発言に対しての異論が1月FOMC議事録で明らかになる可能性がある。前回12月のFOMC議事要旨では、想定以上のタカ派よりの姿勢がサプライズとなり、日経平均が844円急落した経緯もある。
温度差はFOMCと民間要人・エコノミストの間にも顕著だ。

総じてFRBがインフレ対策に於いて後手に回っている(ビハインド・ザ・カーブ)との批判が民間には多かった。

米国を代表するバンカーであるJPモルガン・チェース銀行ダイモンCEOは1月半ばに「年内6回以上の利上げでさえ可能性がある。」と述べた。但しその時点での市場の反応は同氏が時折舌禍事件を引き起こすので「またか」という程度であった。
それゆえ1月FOMC後の記者会見でのパウエル発言が「ついにFRBも後手に回っていることを認めたか」と受け止められ、民間の利上げ観測が相次いで前のめり気味に修正されたわけだ。「我が意を得たり」とばかりに一見過激とも思えるような利上げ観測が市場へ噴出することになった。

FOMC後の1週間でこれほど利上げに関する見解が変化して、なお温度差も顕著である。未だ紆余曲折ありと見るのが妥当であろう。市場は当初のパニック的大変動から今週はさすがに一服気味である。

さて、昨日気晴らしに散歩していたらサギや鵜のコロニー発見。都内では珍しい光景。

3433a.jpg
3433b.jpg

2022年