豊島逸夫の手帖

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FRBタカ派ハト派見解を読む勘所

2022年2月15日

1850ドルの上値抵抗線を突破した国際金価格は多少1860ドル前後を行ったり来たりした後で1870ドル台まで続騰。
年率7.5%という40年ぶりの米国インフレたる事態に比し、未だ1870ドル程度かという見方と、今後7回もの利上げが見込まれる割りには1870ドルという高値水準が維持できているとの評価で市場は割れている。
目先の注目イベントは16日発表の1月FOMC要旨発表。その理由を以下に長々と書いた。また「金利」という分かり難く、つまらない話なので興味のある人は読んでみて。

14日の米国株価は、ラブロフ外相が「対話の道は開かれている。常に合意のチャンスはある。」とプーチン大統領に進言したと伝わり、寄り付き前の時間外でダウ先物が300ドル超の前日比マイナス圏から一気にプラス圏に浮上。その1時間後にはセントルイス連銀ブラード総裁が経済テレビ番組に生出演。20分以上喋り続けダウ先物は再びマイナス圏に反落した。
同氏は昨年来2022年早期利上げ説を論じ続けてきたが、今や3月利上げはほぼ確定の流れとなり、「私の説に(FOMCが)寄り添ってきた。」と胸を張る。そもそも昨年秋以来(政策金利に連動する傾向が強い)2年債利回りは100ベーシス(1%)も急上昇した。市場は既に1%の利上げを織り込んだわけだ。米消費者物価指数もここ4か月ホットな上昇が続きインフレは加速中と言える。それゆえ7月までに100ベーシスの利上げでも市場は混乱しないだろうと持論を展開した。3月、5月、6月、7月と4回連続0.25%幅の利上げか、3月に0.5%幅と、あと2回の0.25%幅か含みを持たせる。その間にウクライナ情勢がエスカレートすればどうなるかとの質問には、マクロ経済的にはウクライナ情勢の影響は欧州経済には強いが、米国経済には距離感があると語った。政治的にはウクライナ問題は重要だが、経済的には金利が肝要と説く。ウクライナ不安でも利上げは強行する姿勢と市場は受け止めた。

米国の高圧経済に対して、もはや緩和剤は不要で急ぎ除去すべき。今現在、未だ量的緩和が縮小規模でも継続していることに苛立ちさえ露わにする。
この点に関して対照的な意見を述べたのがサンフランシスコ連銀デイリー総裁(ハト派)だ。先週末の地上波討論番組で「もはや金融緩和的要素は取り除くべきであろう。サプライズ要因がなければ3月に利上げとなろう。その後の利上げに関しては会合ごとに状況を点検しつつ慎重に決めてゆくべき。」と述べた。
なお、同氏は今年のFOMCで投票権は持たない。

筆者が聞いてみたいのは、ニューヨーク連銀ウイリアムズ総裁の見解だ。同地区連銀は常任で投票権を持ち別格扱いだ。しかも同連銀が発表した月次の消費者調査によれば、1年後の期待インフレ率が12月の6.0%から1月は5.8%に低下している。これは2020年10月以来の現象とされる。特に食料品、ガス、家賃、医療費などの価格上昇が鈍化すると見ている。それでもコロナ前の物価水準よりは高い。ウイリアムズ総裁はハト派なのでブラード総裁の見解に比し、かなりの温度差がありそうだ。
同じくハト派の主導格であったブレイナード新副議長も未だ人事が議会未承認ゆえ公的発言は控えているようだ。議会公聴会では指名したバイデン大統領を意識してか「インフレには断固対応する」とタカ派的ニュアンスで語っていた。これまでは筋金入りハト派とさえ言われてきた同氏の本気度が問われそうだ。

なお、利上げと同時に議論の俎上に上がるQT(FRB資産圧縮)については、償還期が来た保有債券分を再投資せずFRB資産規模を自然減に任せる消極的圧縮派とアウトライトに保有債券を売却する積極的圧縮派に分かれる。圧縮規模については2022年5000億ドル、2023年1兆ドルなどの予測が市場には流れるが現時点では白紙の状態である。圧縮開始時期も年央から年後半まで意見は割れる。市場が最も嫌うシナリオは利上げとQTの同時全速進行だ。この合わせ技は市場心理を委縮させる。
更に、長期債の保有減らしを優先させれば10年債利回りが上昇するので、長短金利差縮小に歯止めを掛け、景況感悪化の兆しとされるイールドカーブ平坦化を是正する効果を期待する意見もある。

総じて、メディアで積極的発言を繰り返すFOMC参加者は押し並べてタカ派だ。特にカンザスシティー連銀ジョージ総裁とアトランタ連銀ボスティック総裁の二人の発言が目立つ。対してハト派は概ね沈黙を保っている。仮に発言しても過激ではないので見出しにはなり難い。その実態は16日に発表される1月FOMC議事要旨で明らかになる可能性がある。例えば「幾人かの参加者は会合ごとに慎重に決断すべきと述べた。」というような記述があれば、FOMC内でハト派も隠然たる勢力のあることが検証できよう。
12月FOMCの要旨発表では想定以上のタカ派姿勢が確認され、「FOMCサプライズ」により、1月6日の日経平均が844円急落した経緯も未だ記憶に新しい。それゆえ今週のメインイベントのひとつと見られている。

さて、昨日は近所の診療所から「ファイザーワクチン、キャンセルあるよ」と電話が入り、いそいそと出掛け打ってもらった。今回も今朝は左手が50肩みたいに上がらない。すっかり慣れた。
本日はまた対面セミナー。大きな会議室で数名相手に話す。
ところで昨年末恒例の経済俱楽部での講演録が届いた。長い歴史のある俱楽部で4395回目の講演。ここは90分の講演と質疑応答をそのまま全文書き起こし毎月印刷して会員に配布する。自分の生の発言がそのまま活字にされると「私ってこんな口調で喋っていたの」と今更ビックリ(笑)。

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3441②.JPGなお、本日は産経新聞朝刊に金について寄稿している。

2022年