2022年12月15日
注目の12月FOMCが終了。声明文や最新FRB経済レポートが発表され、パウエル議長記者会見が開催された。
13日に発表されたCPIが年率7.1%まで下落したので、市場ではFRBから「これまでよりハト派的見通しが語られる」との楽観論もあった。市場が見る将来の政策金利予測も5%の大台を下回っていた。
ところがパウエル議長の発言は一貫してタカ派的であった。
「利上げ路線に変化はない(stay the course)」と明言。
市場に淡い期待が残っていた「2023年には利下げの可能性」も、まだ引き締めが十分ではないと一蹴。
FOMC参加者による将来の金利見通しも、前回(9月)は2022年末で4.375%が中央値であったが、今回は2023年末で5.125%が中央値で10名、更に5.375%が5名、5.625%が2名と5%の大台を上回った。なお4.875%と書き入れたハト派が2名いた。
パウエル議長は「高く、長く」と常に語っており、5%超の高金利水準が2023年いっぱい続くと見られる。「インフレは抑制の手を緩めるとぶり返す」との認識がFOMC内では共有されており、インフレを根絶やしにするためには政策金利を長く留め置くことが肝要ということなのだ。インフレがピークアウトとの見解については「家賃が契約更新の際に現状の高い水準に変更される」事例をパウエル議長は語った。賃金については「労働者が離職すると戻って来ず、新たな人員確保も難しく、結局レイオフできない事例が顕著ゆえ下がり難い」とも述べた。
スタグフレーションに関しては「まずはインフレ抑制を優先する」と述べ景気後退覚悟の姿勢を明確に打ち出した。
なお、0.75%ジャンボ利上げを4回続けても株価が上がるようでは市場環境の引き締めが十分とは言えないとの見解もある。
そこで経済に冷や水を浴びせることでインフレを鎮静化するとの発想の中で、株高はインフレ要因となるとの議論も根強いが、パウエル議長は回答を避けた。
市場の反応だが、既にNY市場はクリスマスも近く、休暇モード入りで市場参加者は減りつつある。FOMCの結果を受けてまず動くのは超短期売買を繰り返すアルゴ系ファンドなどに限定される。それゆえ株安・ドル安の反応も強くはなかった。
注目は2023年相場への影響だ。カレンダーの関係で2022年のクリスマス後も27日から30日まで欧米市場はオープンしている。未だ2022年だが実質的には市場のセンチメントが2023年新年相場入りと言う展開になろう。今年円売りを仕掛け、円安を主導したニューヨークの投機筋も12月最終週から新たに動き出す可能性もある。2023年は5%超の金利水準が続くと見れば、再び円売りに動くシナリオも見逃がせない。欧米市場での円安で、お屠蘇気分も吹っ飛ぶ可能性を秘める。
なお、筆者の懸念はQT(量的引き締め)だ。毎月950億ドルを上限にFRB保有債券を粛々と減らしてゆくので「オートパイロット(自動操縦)」と言われるが、既に短期金融市場では流動性不足の兆しも見られる。今週FOMCとほぼ同じ程度の注目度を浴びた仮想通貨FTX社破綻、同社CEO逮捕の件もマネー収縮時代を告げる事例と受け止められている。今後は簿外取引、シャドーバンク、プライベートエクイティにも波及しそうだ。市場の安定も重視する立場のFRBが金融正常化の過程でQTのペースを見直す可能性はないのか。パウエル議長はQTに関しては「オートパイロット」と繰り返すばかりで多くを語りたがらない。それゆえ市場も神経質になっている。
金価格に関しては、仮に5%金利が続くとすれば金利を生まない金に短期的には逆風になるが、政策金利5%超えともなれば2023年米国経済不況入りは必至だ。
既にNY市場では2023年米国経済不況入りの確率が70%とされている。どの程度の不況になるか、深いか、浅いかについては議論が分かれるが安全資産としての金の出番は増えよう。既に米国メディアでも金投資に関する記事や番組が増えてきた。今年はドル建て金価格が弱含みであったので潮目の変化を感じる。
なお、YouTube豊島逸夫チャンネルの2022年 相場フィナーレ パート2 FOMC総括ライブを配信した。