2016年1月1日
テロと原油安が今や世界経済二大テーマだが、この共振現象が今年は顕在化しそうだ。
その典型が、サウジアラビア。
歳入の7割以上を石油関連に依存するため、2016年国家予算は、財政赤字が日本円で10兆円を上回る見込みとなった。事前予想を上回る厳しい緊縮政策が国民生活を直撃して、社会不安、テロを誘発する可能性が否定できない。
例えば、ガソリン価格は、これまで手厚い補助金で1リットル10円台後半程度に抑えられていたが、同20円台後半の水準まで一気に引き上げられることになりそうだ。それでも世界水準では極めて安いが、補助金慣れした国民にとっては、5割を超す値上りとなり、心理的影響は不可避だ。
更に、貴重な水の値段も上がり、富裕層限定で電力料金も上がるという。付加価値税導入も検討中である。
既に、若年層の失業問題が深刻化しているだけに、過激派思想が国内で拡散しやすい社会情勢だ。
気になる原油価格動向については、ゴールドマンサックスの20ドル説がしきりに流れるが、同社は、200ドル予測で外した「実績」もある。本欄では、昨年12月15日付けで「原油下げ局面に底打ちの兆し」と書いたが、NY原油先物市場でも、「売り一辺倒」への反省気分がボチボチ出始めている。先物の売り残高が蓄積して、いつ買戻し殺到現象が起きても不思議ではない。とはいえ、戻しても40ドル台前半に留まりそうで、安値圏での下値模索は続く。
そこで、原油安の株式市場への影響だが、日本は原油輸入国なので、NY市場関係者の間では、2016年の日本株には追い風とみる向きも少なくない。世界のマネーの流れを見ると、今年1~3月期は追加緩和期待の欧州株に流入中だが、マネーは回遊するので、4~6月期には日本株が受け皿として浮上する可能性がある。その際に、原油安の恩恵を受ける国としてジャパンが見直されるだろう。
NYのヘッジファンドや年金関係者が日本株に興味を持つと、筆者がNYでの勉強会に呼ばれるのだが、昨年末に、16年2月に来てほしいとの打診があった。実は、昨年7月、12月と予定されていた勉強会がキャンセルされ、その間、海外勢は日本株売りに走ったという経緯がある。ゆえに、そろそろ、日本株の出番来たかと筆者は認識している。
米国人投資家の視点で見ると、利上げ後の米国株上昇は、相場の成熟期。相対的に、アベノミクス相場はまだ「若い」ということになる。12月の日銀「補完」措置は、分かりにくさや、賛成6対反対3などの点で不信感を醸成してしまったが、欧州中央銀行(ECB)もドイツが追加緩和に対して依然抵抗感を示している。とにかく、日本株のライバルは欧州株という展開になりそうだ。
ワイルドカードが、中国株と新興国株。
中国株には政策期待が残る。消費主導型経済への移行は過渡期の失業を生み社会不安を増長しかねないので、今年に関しては、新常態を意識しつつ、旧常態の輸出・インフラ頼みとなりそうだ。まだゼロ金利ではないので、利下げという伝統的金融政策による景気浮揚が可能で、財政出動も余地も残すので、経済政策の懐が深い。但し、市場参加者の8割近くが個人投資家という脆弱性は変わらない。官の介入という生命維持装置が株価を支えている。ここにきて、米ハイイールド債市場不安の連想で、中国版ジャンク債ともいえる理財商品のデフォルト懸念再燃も意識され始めた。中国株は、やはり、ワイルドカードである。
新興国株は、一括りで論じることは出来ないが、ブラジルは悲観、インドに期待、というところか。いずれにせよ、世界のマネーの受け皿になるほどの市場規模ではない。その点、日本株は、ATMの異名を持つほど、いつでも引き出せる(売買できる)という安心感が強味だ。
そして、円相場。
利上げ前の15年は、ドル買い、円売りが主流であったが、利上げ開始後の16年は、円安局面・円高局面が交錯しつつ、基調円安という地合いになりそうだ。特に、原油安・テロ・地政学的リスクに発するリスクオフの円高には要注意だ。昨年8月24日に起こった数時間で116円への瞬間的円高のような現象(フラッシュ・トレード)は、高速度取引が席巻する今の市場で今後も再発しよう。125円への過程で、115円程度の一過性円高にも振れやすい。
従って、日経平均も、想定せざるリスクオフで、ヘッジファンドの売り攻勢がかかり17000円台への下げ局面も考えられる。いっぽう彼らの見るレンジの上値は21500円程度が平均値である。