豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. NYの鯨に狙われる円
Page1993

NYの鯨に狙われる円

2016年1月7日

今の市場で悪い話をすればキリがない。しかし、市場の不安心理を表わすVIXは20台にとどまる。昨年8月の世界同時株安時には40台まで跳ねた。NY株も売買量をともなわない下げだ。静かな市場波乱というべきか。少なくともパニック感は薄い。観衆ばかりがエキサイトしているが、プレーヤーたちは冷めているゲームを見ているごとき印象を受ける。

さて、その悪い話を並べてみる。

北朝鮮が核実験してもNY株価はさほど動かないという過去の市況の法則が今回ばかりは通用しなかった。中国では民間の財新が発表する12月サービス業購買担当者指数(PMI)が、50.2まで低下。景況感の境とされる50に接近した。中国国家統計局が1日発表した12月非製造業PMIが54.4の高水準を示したことと矛盾する統計数字だ。中国政府が目指す内需主導型経済への移行に暗雲が漂う。

そして、WTI原油先物は、サウジアラビア・イラン断交という中東異変にもかかわらず、33ドル台まで下げた。ここでも、過去の市況の法則が通用しない。下げの理由の一つに「ドル高」が依然挙げられる。日本人から見れば、足元ドル安・円高ではないか、と思うのだが、ドルインデックスは99台で依然100の大台近傍にある。

やはり、「円」が投機筋から狙われているのだ。

6日もNY市場のオープニング前後、日本時間夜10時台にいきなり119円台から118.30円前後まで円がほぼ瞬間的に急騰した。昨年12月10日付け本欄「円高異変の実相、120円台試すか」で指摘した「NYの鯨」が、また動いた。昨日本欄「北朝鮮水爆実験、深夜のNY市場も揺らす」で速報したが、ヘッジファンドが円を標的に仕掛け始めたのだ。昨年と大きく異なるのは、円買いトレードに転じていること。これまでユーロを売って買い戻したマネーが、円に流入中だ。後講釈で「リスク回避の円買い」と語られるが、彼らは、円高のリスクを取りにきている。要は、自分たちのポジションで動かせそうな投資媒体であれば、貪欲に揺さぶりをかけてくるのだ。ボラティリティー(価格変動)があれば、そこに収益機会を見出す連中である。逆に、ヘッジファンドを殺すのは簡単。ボラが無ければ、彼らは干上がる。

なお、ヘッジファンド主導の円高は、買いも速いが、売り戻しも速い。116円程度を目標にしているが、達成感が出るか、抵抗線突破無理と判断すれば、一転「日米金融政策の非対称性による金利差」を囃し、円安派に変身して憚るところがない。アナリストと異なり、議論の一貫性など眼中にないのだ。メディアに「円高派は円安派か」と問われれば、円買いの最中であれば円高派、円売りの仕掛け中であれば円安派と答える。そのヘッドライン(見出し)で相場が動いてしまう。

日本人は議論好きだが、考え過ぎて結局何もできずに終わる。だからこそ、日本市場がウインブルドン現象と揶揄されるのだろう。売買の場所だけ提供するが、活躍するプレーヤーはガイジンという意味だ。

日本市場の鯨といえば、公的マネーだが、NYの鯨は、民間のヘッジファンド。そこに、最近はNY市場を主戦場とする一部中東諸国の政府系ファンドも加わる。原油収入減による資産圧縮がしきりに指摘されるが、ディーリングによるアクティブ運用で売買収益の最大化を目指すところもあるのだ。事実、ボルカールールのあおりでトレーディング部門が縮小・閉鎖された投資銀行のディーラーが、ウォール街も驚くような高給で中東に「助っ人」として3年契約の出稼ぎにリクルートされる事例が少なくない。リスク資産運用を制約され続けてきたディーラーたちが、中東系のボスのもとで、リスクを取れと、叱咤激励され、水を得た魚のごとく、いきいきと働いている。中東の時間帯は、アジア時間とNY時間の両方をカバーできるアドバンテージもある。
円、そして日本株の市場に、2016年は、新顔のミステリー・バイヤーあるいはセラーが出没しそうな様相だ。


かくして、円高傾向なので、NY金は1100ドルに接近するほど上がったが、円建て金価格は為替で相殺されている。

そして、金は、通貨と商品の二面性を持つので、「安全資産」として買われているが、プラチナは純粋な商品なので、景況感が悪化すると売られる。NYプラチナ安と円高で、円建てプラチナ価格は更に安い。

店頭でも、プラチナが相変わらず売れている。この相場観は正しいと思う。

今日の写真はハインツベックのデザート。

2263.jpg


右のてんとう虫みたいなのと、左のショウガ風味のゼリーがユニーク。プレゼンテーションを競う食の世界だね。個人的には、新鮮な季節の素材を飾らず、サッと熱入れて供してくれるのが好きだけど。そろそろ、北海道のタチ(鱈の白子)が食べたいなぁ。。そのために札幌行ってもいいくらい。鮮度の関係で、東京で食するのは絶対無理。クリーミーで、酒飲まない私が、お茶で食べられるほど。普通、白子をお茶だけで食べるのは難だけどね~~。北海道のタチが凄いのは、普通の回転鮨で、一貫50円くらいで、充分にいけちゃうこと。東京だったら、数千円だよ。ふぅ、、今年は冬の札幌の講演会が無いな。。。プライベートで行くか。。。(笑)


それから、今週号の週刊ポスト。

貴金属関連記事。

2263b.jpg


前半で「経済アナリスト」として、貴金属記事で「金アナリスト」として、コメント。

2016年