2016年12月19日
トランプ氏の、台湾総統との電話会談には、市場も驚愕した。対中国、次の一手はなにか。ツイッターで何か再び呟くのか。チャイナリスクには敏感になっている。
そこに、トランプ氏が、親中派アイオワ州ブランスタド知事を起用したことは、欧米市場で良い材料として評価されている。
中国外務省も「ブランスタド氏は古い友人」と歓迎声明を発表し、人民日報も「習近平氏の長年の友人が中国大使に指名」と報じている。
両者の最初の出会いは1985年。習近平氏が姉妹都市交流の一環として農業関連使節団を率いてアイオワ州を訪問した。その当時、ブランスタド氏は既に同州知事であった。両氏の農業に対する熱い思いが、イデオロギーの違いを乗り越えた友人関係の礎になったようだ。
2回目は、ブランスタド氏が2011年に中国を訪問。一時間近く会話したという。
習近平氏が国家主席就任後も、2013年と2015年にブランスタド氏に会っている。
アイオワ州にとって、中国はカナダに次ぐ穀物輸出相手国ゆえ、「トウモロコシ外交」が期待されているのだ。中国は13億人の人口をかかえ、穀物供給の一部を米国に頼らざるを得ない。新たな農業技術も米国から学ばねばならない。米国側から見れば、中国は穀物関連の重要顧客ということになろう。
実は、トランプ氏は選挙中から、「中国用人材」としてブランスタド氏に目をつけていた。選挙運動中にアイオワに立ち寄ったときも、ブランスタド氏をステージに呼ぶとき「中国の面倒を見るに最高の候補者」と紹介している。
トランプ氏は、習近平氏がワシントンを訪問したら、国賓用ディナーではなく、マクドナルド・ハンバーガーを供すると語ったが、ブランスタド氏は、アイオワ州都デモインで、訪れた習近平氏を、豪華なフルコースでもてなしていた。
今回の人事では、トランプ氏が強い反中国発言・ツイートを繰り返すなかで、中国への配慮をにじませた。更に、対話のパイプとして機能する人物を大使に指名した。外交経験のない次期大統領ゆえ、側近のアドバイスによる人事ではあろうが、中国側にも一定の安堵感はあろう。
いっぽう、穀物生産と対中国外交は別物との冷めた見方も根強い。領土・為替・貿易など一連の重要課題は、一大使が変えられるほど甘くはない。
おそらく、最も現実的なシナリオは、トランプ氏が中国向けに挑発的なツイートを発信。ブランスタド氏が火消し役に走り廻る。中国側も強い不快感を外務省が表明しつつ、外交レベルで、落としどころを探る、という展開ではないか。
市場の視点では、米中の偶発的地政学的リスクがトランプ政権にはつきまとうので、興味深く中国大使人事を見守っている。
株式市場では、日本株がこれまで外国人投資家から敬遠されてきた理由の一つに、チャイナリスクが常に指摘されてきた。「尖閣問題について意見を聞きたい。」筆者がニューヨークで再三遭遇した質問だ。
それゆえ、習近平国家主席と直接話せるほどの履歴を持つブランスタド「中国大使」が果たす役割への期待度は高いのだ。
そして、先週金曜の日本時間午前1時前後に中国艦が南沙で米国のドローンを奪取というニュースが飛び込み、俄かに緊張した。円は118円40銭から117円60銭まで瞬間的に急騰。有事の金も急騰。
その後、中国側が返還となったので、事なきを得た。しかし、トランプ氏は、そんなドローンは、欲しければくれてやる、というツイッターのつぶやき。売られた喧嘩は買うという態度に、あらためて市場はトランプ氏のチャイナリスクを実感。中国側の挑発にのりかねない危うさ。
週末は、ガーラ湯沢がいよいよ今シーズンオープンというのに、名古屋、東京と講演(涙)。