豊島逸夫の手帖

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伏兵副議長発言で円高進行回避

2016年8月29日

ジャクソンホールで注目のイエレン議長講演。「利上げ条件が整う。」と語ったが、市場は気迷い気分で大きな反応は見せていなかった。

株の下落、ドルの上昇が明確に始まったのは、その1時間ほど後。フィッシャー副議長が米CNBCテレビの生インタビューで「9月、そして、年2回の利上げ」について「イエレン議長の講演と整合的。」と答えたときだ。画面のNYダウ・チャートがほぼ垂直に降下を開始。米国債利回りとドルインデックスのチャートは見る見る上昇。





質問者は米CNBCの名物FEDウォッチャー、スティーブ・リースマン氏。前回のFOMC後記者会見でも、真っ先に質問に立った。ワイオミング州の高原に据えられたデッキチェアーに座り、副議長に「スタンリー」とファースト・ネームで質問。笑みが絶えないカジュアルな雰囲気の設定だった。

「イエレン議長は利上げに向けての条件が強まったと表現したが、この点について、もうすこし説明していただけないか。」

「まず新規雇用。議長が語ったように3か月平均で19万人ほど増えている。その他の経済データは多すぎて、持て余しているよ(笑)。経済成長率悪化については、遅行指標で頻繁に修正される。利上げ判断にあたり、我々は、後向きではなく前向きにデータを見ている。次回の雇用統計は極めて重要だ。インフレ率上昇は昨年より改善している。」

この時点で、画面のダウ平均は18,527、ドルインデックスは95.07、10年債利回りは1.566%を示していた。

そして、利上げについての発言となったわけだ。


「決めるか決めないか、腹をくくれるか、ということだね(笑)。来月の利上げ、そして年2回の利上げはどうか、との貴方の質問に、イエスと整合的に答えるよ。もちろんデータ次第だけどね。このデータ次第という表現は、分かりにくいとの批判があるが、それで、どうしろと言うのかね。コイン投げで決めるのかい(笑)。」

この直後から、ダウ平均は下げ基調に転じ18,395で引けた。一日のグラフを見ても、この時間帯で、前日比プラス圏からマイナス圏になっている。

更に、ドルインデックスは、95.40台、米10年債利回りは1.62%台で終えた。

イベント的にはイエレン講演がジャクソンホール会議初日のハイライトであったが、市場のモヤモヤ感を吹き飛ばしたのは、フィッシャー副議長であったことは間違いない。MIT(マサチューセッツ工科大学)でバーナンキ氏やドラギ氏が教え子であった、というほどの大物副議長が、リゾートでピンクのシャツに赤色のウインドブレーカー着用で本音を語るという画像は極めて稀だ。それが、市場への説得力を強めたのだろう。

筆者の知る限り、FRB高官が、テレビで、利上げ決断について「stomach=腹」という単語を使うことなど初めてではないか。

市場とのコミュニケーションにおいて、FRB正副議長がリレー・バトンタッチを演じ、合わせ技一本となったようだ。

円相場も、イエレン講演直後には100円ギリギリの水準まで一旦は円高に振れたが、その後、講演前の水準に戻し、フィッシャー発言をキッカケに101.80円水準まで円が売られた。

金曜本欄で、「イエレン氏側近発言と整合性がとられると103円程度まで円安に振れる可能性」と書いたが、その想定ほど円安方向に振れていない。

これを、どう解釈すべきか。

次回の雇用統計に注目とフィッシャー氏が具体的に言及したので、振れが大きい月次統計ゆえ、未だ、思い切った円売りには踏み込めなかったということだろう。

それにしても、101円台で「円安」といわれるようになった。市場がすっかり「円高慣れ」した印象が否めない。あらためて、市場の円高基調の根強さを思い知らされた感もある。

なお、昨日のイエレン講演・フィッシャー発言と市場の反応を見て、ホッと安堵しているのは、麻生財務相と黒田総裁ではないか。これで、他力本願ながら、当面、介入の心配は遠のいた。

利上げ近し、ドル高となれば、金価格は軟調。1310ドル台。今週金曜発表の雇用統計次第では1300ドル割れも。但し、そのときには円安になるから円建てでは下がりにくい。1300ドル割れでは、中国も間違いなく買いに入る。いつものようにバーゲンハンター。下値狙い。

ところで、昨日、大阪で日経主催の「親子で資産運用を考える」セミナーで主として金市場と世界経済の話をした。



渋る息子を引っ張ってきたというお父さん。姉妹にしか見えない母娘。あっけらかんと、株で損しちゃって、と語る。筆者が利上げ近し、と言ったら、それ見たことか、と夫にガッツポーズした妻(ま、夫婦とお見受けしたのだが(笑)。)普通のセミナーより、とにかく、和やか。ガツガツした雰囲気が薄い。この親子シリーズは、福岡、札幌、仙台、新潟、静岡、名古屋、そして、今回、大阪。今週末は広島(中国新聞主催)と全国縦断中。この、和やかな雰囲気が、筆者は好きだ。こちらも、つい、「私」と言うべきところ、「俺」と言ってしまったり、緊張感がない本音トーク。相方の佐久間あすかキャスター(日経CNBC)も、癒し系なのがいい。金融証券の世界は、癒し系もいるけど、威圧系の人もいるからね(笑)。

初心者が多いので、努めて、分かりやすく話したのだけど、中には、そもそも、投資とは全く縁がなかったという参加者も少なくない。日経主催だから、多少は投資経験があるだろうと思ったが、意外で、まだまだ、未開発層が多いことを実感した。これは、たぶん、日経ウーマンオンラインでも募集かけた故かな。かと思えば、ヘリマネにご執心の上級者もいるし。それゆえ、第一部、初心者編、第二部、中級者編、それでも物足りない上級者は、中締めのあと、居残りでステージから観客席に降りて、個別対応した。それでも、シャイな人たちが多く、私が降りても、なかなか近づかない。ところが、一人が近づき質問し始めたら、ワッと寄ってきた。実は、みんな、もっといろいろ聞きたいのだよね~~。これ、日本中、どこでも同じ現象だよ。

2016年