豊島逸夫の手帖

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米討論会に滲む円高基調

2016年9月28日

「今、株式市場は良さげに見えるが、ほんのちょっぴり利上げするだけで、株価はクラッシュするよ。我々は、大きく肥えて、醜いバブルの真っ只中なのだ。」

トランプ氏はイエレンFRB議長批判を、大統領選候補者討論会でも展開した。「大統領らしく」振る舞うことを意識したトランプ氏だが、やはり、感情的表現を抑えることは出来なかった。

「FRBのジャネット・イエレン」と名指ししたうえで、FRB批判が止まらない。「オバマ大統領がゴルフで余生を過ごすとき、利上げでとても悪い事が起きるよ。FRBは仕事をしていない。クリントン長官よりFRBのほうが政治的だ。」

利上げに関しては、当初「自分は低金利人間」と語っていたが、討論会では利上げが後手にまわり超低金利が長く続きすぎるリスクを強調した。

このように、品性を欠く語り口でイエレン議長の個人攻撃に走り、更に、主張がぶれるのも、討論会での印象度を悪くしていた。

討論会翌日の27日に、フィッシャーFRB副議長が、講演で冷静に「利上げを急ぐべきではない。」と語ったことも、筆者には、FRBの矜持を示した発言に聞こえた。

但し、FRBも、市場とのコミュニケーションに問題を残す。フィッシャー氏は、ジャクソンホールで、あれほど明確に9月利上げの可能性を語っていたのに、今や、慎重な発言に転じている。勿論、その間、米マクロ経済指標が悪化した故のことなのだが、大物FRB副議長の変節はマーケットのFRBへの不信感を強める。おそらく、12月FOMC前に、FRB高官がかなり具体的に利上げの可能性を語っても、市場は額面どおりには受け取れないだろう。マーケットのほうも、12月利上げ説に、コンセンサスが収斂していること自体に、不安も感じる地合いだ。「市況の法則」どおりの利上げ=ドル高円安に素直には動きにくい。

なお、討論会に関して、市場の最悪シナリオは、トランプ氏がまくしたて優勢に終わることだった。しかし、クリントン氏の冷静な態度が評価され、株式市場には安堵感が漂っている。

しかし、外為市場では、TPPについて、討論会でもクリントン氏が対抗上、否定的発言を繰り返したことで、やはり、どちらになってもドル安政策との見方が追認されたことに注目。

討論会直後は100円台後半の円安に振れたが、結局、100円台前半にまで円高に戻っている。

ドイツ銀行不安というリスクオフ円高要因も重なり、円高基調の根強さを見せつける結果となった。

それにしても、トランプ氏は討論会でも一言多い場面が多かったね。

普段の喋り方を急におすましして、大統領らしく振る舞えというほうが無理筋だ。クリントン氏に「貴方は納税報告書を開示していないわね。連邦税を全く払っていないからでしょ。」と突っ込まれ、「私は頭いいからね。」と、上手な節税を誇る発言。思わず、「僕だって頭いいんだぞ。」との自慢を語らずにはいられなかった。まだ経験が浅いね。次回の討論会までには修正してくるだろうけど。

そして、金価格は、トランプリスク後退による市場の安堵感を映し、1320ドル台まで反落。しかし、まだ2回の討論会を残し、且つ、討論会の結果が実際の投票行動に与える影響にも見方が分かれる。

今朝の日経朝刊商品面には「金の買い注文、最高水準に 不安定な金融市場背景」との記事が出ている。先物の買い残高が過去最高の水準に達し、なお且つ、マネーが金市場に滞留して、出てゆく気配が薄いという内容。私のコメントは「ドル安志向の強さが意識されている」という引用。なお、来年は本格利上げとともにドル高・円安基調に戻り、ドル建て金価格は下げ、円建て金価格は上げやすくなる、との中期的見立てに変わりなし。

そして添付写真は、昨日に続き、IMFが物議を醸した銀行金融システミックリスク度ランキング、実名入り。(日経マネー「豊島逸夫の世界経済深層真理」より)

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2016年