豊島逸夫の手帖

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原油安・円高に潮目の変化

2016年4月21日

ドーハ生産国会議物別れ、クウェート・ストライキ収束にもかかわらず、原油先物価格は42ドル台まで上昇した。失望売りも39ドル台で食い止められた。NYMEXフロアーでも、買いの仕掛けが優勢になりつつある。圧倒的空売り攻勢が市場を席巻したときに比べると、マーケットの景色が劇的に変わっている。

20日には、米エネルギー情報局が発表した週間の米石油在庫統計の減少が、上げの材料視とされた。総じて、良い需給要因には相対的に強く反応する地合いになっている。

今回の原油反騰の背景には、「原油価格が20ドルではたまらない。」という生産国が共有する危機感や焦りが指摘される。

「我慢比べ」もついに限界に達したということだ。

したがって、今回の生産国会議では結果が出なかったが、近々、再度、生産国会議が開催されるとの期待感が根強く残る。生産国としては、すがる気持ちなのだ。具体的には、OPEC総会前にも、2か国間ベースでの根回し交渉の可能性も語られる。

クウェートのストライキも生産国にとって他人事ではない。原油輸出収入減が緊縮財政を招き、国民の不満は募るばかり。クウェートは中東諸国の中では相対的に言論自由度が高いので、ストライキが出来た。しかし、国の締め付けが厳しい国々では、暴動・テロなど過激な行動・原油施設への破壊的攻撃に発展する可能性が視野に入る。

だからこそ、原油価格が地政学的要因に反応するような地合いになったことは、大きな変化なのだ。

その地政学的要因がいつどこで勃発するか予見は殆ど不可能。そうなると、投機筋もうっかり空売りには走れない。

マクロ的に見れば、原油安は消費国には減税のごとき恩恵をもたらすと言われてきた。しかし、世界的視点では、生産国から消費国への所得再配分だ。生産国には、経済縮小効果をもたらす。しかも、消費国の原油安ボーナスは消費されず貯蓄される傾向があり、効果実現には時間がかかる。対して、生産国国民は既に痛みを感じている。株式市場では、原油安より原油高が好感される状況は変わらないだろう。

更に、足元の市場へのインパクトとして見逃せないのが、原油高の円安効果だ。原油高はリスクオフを和らげ、円買いを抑制する。同時に、原油高はインフレ期待を高めるので、米利上げを早めるシナリオも考えられる。これはドル高=円安要因だ。20日にも、原油高が、外為市場での円安の大きな要因とされている。原油先物価格がモメンタムに乗って更に上昇すれば、円相場が110円の大台回復となろう。心理的節目ゆえ、105円を怖れていた株式市場にはかなりの朗報となるは必定。

資産運用面でも、原油価格が40ドル台にとどまれば、一時危惧されたシェール投資を組み込んだハイイールド債の危機説も和らぐ。総じて、リスク資産への分散運用のキッカケにもなりうる。アルゼンチン債さえ買われる状況だ。日経平均が連日大きく振れる日本株も、相対的高品質のリスク資産として、そのメニューに載る可能性も高まる。

勿論、原油価格長期安定には程遠いが、徐々に新たな需給均衡点が、おぼろげながら水平線上に見えてきた。今の原油反騰が未だ「ホンモノ」といえる段階ではないが、徐々に現実味は増している。連れて、円安も緩やかに息を吹き返しつつある。

貴金属市場は、値動きが荒いプラチナが1020ドル台まで若干上昇。相対的に安定的な金は1240ドルに若干反落。金・プラチナ値差も一時の300ドル前後から220ドル程度まで縮小してきた。

今日の写真は緊急開催「パナマ文書を考える会」にて。3人でパネルディスカッション!主催者の意向で和風のセッティング。






着物の経済キャスターとNHK国際キャスターと真摯な議論が展開されました。今どきの若い人には珍しく、着付けがきっちり出来る。髪飾りなど小物も自らの手作り。雨上がりの充実した清々しいひと時でした。

2016年