豊島逸夫の手帖

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ちらつく、日本でのヘリコプターマネー論

2016年5月30日

伊勢志摩サミットを契機に欧米でも日本経済の精査が始まっている。金融政策の切り札は残り少なく、消費増税延期・財政出動の効果は一過性、そして、第三の矢(構造改革)は既得権の反対を切り崩せず、となれば、残るは、「禁じ手」とされるヘリコプターマネーとなるわけだ。

バーナンキ前FRB議長が、景気が悪ければ、ドル紙幣をヘリコプターからばら撒けば良いとスピーチで語ったことで、有名になった。但し、彼が始めたのは量的緩和政策。

金融機関など民間が保有している国債を中央銀行が買い取るという方法に限定された。

しかし、ヘリコプターマネー策では、日銀が政府発行の国債を政府から直接買い取る。政府が輪転機をフル回転して国債を擦りまくり、それを全額日銀が民間市場をバイパスして直接買い取るイメージだ。

今の日本は、消費増税を再延期。いつになったら、政府は借金を返済するのか目途はつかない。その借金証文である国債を「マイナス金利政策」により、日銀は、本来貰えるはずの利回り分のおカネを国債保有者が払ってでも買いまくっている。政府(財務省)の立場で見れば、国の借金証文をいくらでも発行できて、しかも、借金の金利を払うどころか、受け取れてしまう。既に、ヘリコプターマネーではないか、との見解もあるほどだ。

このヘリマネ(略称)は、IMFでも議論された。

実際の学者からの提案では「日銀が大量に保有する国債を日本政府への無利子・無期限の預け金に切り換える」という内容。

巨額の国債発行による公的債務は消え、国民は減税や補助金などで恩恵を得る。

荒療治だが、切羽詰った日本経済・アベノミクスを立ち直らせるキッカケとしては、この程度やらないとダメなのでは、との見方が欧米では増えてきている。

勿論、この政策は、紙幣の無制限供給によるインフレの懸念がつきまとう。

それでも、このようなタブーが絵空事とはいえないことを、伊勢志摩サミットはあぶりだしてしまった。

安倍首相の「今の世界経済にはリーマンショック級のリスクがある。」という唐突な発言が、「日本の首相は、それほどまでに日本経済危機を意識しているのか。」との解釈を生んだともいえる。

なお、昨日発売の日経ヴェリタスの筆者コラム「豊島逸夫の逸's OK!」では「ヘッジファンドはつらいよ」との原稿を書いた。次回はヘリコプターマネーについて書くつもりだ。

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2016年