豊島逸夫の手帖

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トレーダー向きのオリンピック選手は?

2016年8月30日

本稿は、先週の日経ヴェリタス「豊島逸夫の逸's OK!」に書いた元原稿です。

バドミントンで日本に初の金メダルをもたらした高橋・松友組。第3セット、16―19アゲインストからの5ポイント奪取を見て、「トレーダーに欲しい人材」と思った。一回り体格が大きい相手ペアに、あと2ポイントで負け、という極限のプレッシャーの中で、見事な粘りを見せ、奇跡的逆転勝利。後で、インタビューを聞くと、その時、羽球と相手の動きに完全集中して、ストレスを超越した心境だったようだ。

いわゆる、「ゾーンに入った」という状況であろう。

相場でも負けが込み、極限の逆境に置かれると、もはや理論などは役立たず、「胆力」の勝負だ。

リスク耐性の強さとも言えようか。

特に、肝臓が大きい人はストレス吸収能力も強く、トレーダーに向いているようだ。

知り合いの優秀な女性外為トレーダーは、健康診断の内臓X線写真で影があると指摘され再検査を受けたところ、単に生まれつき肝臓が大きいだけであった(病的肥大とは異なる)、というエピソードがある。だから、筆者は、アシスタント・トレーダーをリクルートするとき、面接候補者に内臓X線写真持参をお願いしたものだ。

筆者も、チューリッヒやニューヨークで、スイス人・米国人チームの中で自分だけが日本人という「アウェー」の試合を続けていると、欧米人の胆力の強さを見せつけられたものだ。日本人は、頭でっかちで理論を重視するが、肝っ玉は小さい傾向が否めない。派遣されてウォートン・ビジネス・スクールで半年だけだが近代ポートフォリオ理論と計量経済学を学んだこともあるが、その結果は、後講釈がうまくなった程度。知識量と投資パフォーマンスは比例しないことも痛感させられた。実際、スイス銀行チューリッヒのトレーダーの半分近くは高卒であった。学歴など関係ない。集中力と頭の切り換えの速さが、まさに「キモ」なのだ。

もう一人、競泳女子200m平泳ぎで金メダルをとった金藤理絵選手もトレーダーにしたい人材と思った。(どうも、オリンピック観戦もトレーダー目線になってしまうのだが。)

彼女の泳ぎは、水中映像見ても、ストロークが大きくペースはゆったりに見える。特に100~150メートルあたりで、他の選手がピッチを速めても、あくまでマイペースを守り続け、そのまま200メートル泳ぎ切った。正攻法で堂々の勝利だ。

相場の世界でも、人間である以上、周りの様子は気になる。そのなかで、自分の相場観を貫くことは、これまた容易ではない。周囲から傲慢とか唯我独尊とか言われようと、自分が正しいという信念を持てなければ、振り回され後追いになるだけだ。売買が高速度化されAIの影響力が強まっても、この部分は変わらない。

金藤選手も、コーチにしばしば、泳ぎのペースが速すぎると指摘され、最後の決勝で、遂にマイペースを守り切った快心の泳ぎが出来たという。

それを聞いて、トレーダーにしたいと思ったのだ。

一般的に、日本人投資家の多くは、胆力はひよわで、「よそさんはどうなんでしょうか。」とキョロキョロ周りを気にして、あれこれ考えた挙句、なにも出来ず、ホームグラウンドを外国人投資家に実効支配されるがままだ。

とはいえ、日本人にも、模範となるような投資家がいる。

以前、本欄で「日曜日の朝は近所のコーヒーショップでヴェリタスを読み、市場の潮流を把握したうえで、実践では自分のペースを守り、目標の7割もいただければ御の字とする」と紹介した御仁だ。

投資は、決して楽して勝てるわけではないが、オリンピックを見つつ、日本市場にも世界で戦えるトレーダーや、本当の個人投資家が増えてゆく可能性を感じた。

以上

それから、ジャクソンホールのイエレン講演で使われたグラフを添付します。FOMC参加者の金利予測ですが、分布図にすると、これほど、バラバラに見方が散っているのです。要は、彼らも、分からないのですよ。それを、市場は当てっこみたいなことをしているわけです。フィッシャー副議長が、(利上げ時期など)「コイン投げで決めるか。」とジョークで語りましたが、本音かもしれません。

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それから、写真は、我が家で採れた葡萄。普通の葡萄だけれど、なぜか、特別な味がするもの(笑)。 周りに散っているのはパンくずです。朝食で食べたから。

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2016年