2016年10月6日
世界の外為市場を三つの台風が同時に直撃している。
ポンド31年ぶり安値、ユーロ急騰、円急落である。
まず、ポンド急落は、ブレグジット相場の第二波ともいえる。まさかの英国国民投票結果を受けた初期反応が鎮静化したが、メイ首相が来年3月離脱通告を発表したことで、いよいよ実感としてブレグジットの切迫感、そしてEU離脱交渉の難しさを市場がかみしめている。メイ首相は極めて難しい選択を迫られている。人の移動の自由を制限して、移民を規制することと、EU単一市場に関税なしのアクセスを継続してEUとの経済関係を維持することの同時達成はEU側が認めないからだ。ブリュッセルが最も不安視するのは離脱ドミノゆえ、出てゆく英国には、その弊害を思い知らさせ、域内他国への見せしめとする必要があるのだ。そこで、メイ首相のとった選択は、党内「強硬離脱派」に配慮して政治的基盤を固めることの優先であった。単一市場へのアクセスを諦める覚悟で、移民制限だけは断固実行するという意志表示である。その覚悟を聞いた金融街シティーは動揺した。英国からEU域内諸国の顧客へ金融サービスも提供できなくなる。金融立国の英国としては大打撃となるは必至ゆえ、ポンドが第二波の投機的売りに晒されたのだ。
次に、ユーロ急騰。
こちらのキッカケは外国通信社報道で、ECBがテーパリング(量的緩和縮小)に動く可能性もあり、との情報が流れたことだった。市場がこのような報道に神経質になるのは、日欧ともに、量的緩和の限界そして出口戦略が懸念材料として最近しきりに議論されているからだ。
そして、円急落。
この動きは、ドル高の裏返しである。ISM製造業景況感指数が上昇したことで、12月利上げ観測が一段と強まってきた。そこに、追い打ちをかけるように、昨晩は、リッチモンド地区連銀総裁ラッカー氏が、利上げに積極的なタカ派的発言をした。特に「現在のFFレートは1.5%以上であるべき。」とまで語ったことはインパクトがあった。
但し、今週は、ISM非製造業景況感指数と雇用統計が控えており、マクロ経済データ次第で流れが変わる可能性を残す。しかも、トランプ大統領候補という、大きなドル安要因も無視できない。
2回目3回目の大統領候補討論会でトランプ候補が巻き返すようなことがあれば、円反騰の局面もあろう。前回の大統領選挙で共和党ロムニー候補が第一回目の討論会で明らかに勝利したにもかかわらず、そのあとでひっくり返されたという事例もある。
かくして、世界外為天気図では、三つの台風の目が、迷走している。
ポンド売りはドル買いを生み、ユーロ買いはドル売りを誘発しているが、総じて、ドル高のほうが優る、ドルインデックスは上昇しているのだ。それゆえ、円安が進行している。市場内のヴェクトルの方向性がバラバラであることも、不安定要因といえる。