豊島逸夫の手帖

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日銀とFRB、連続二つの誤算

2016年2月8日

連日続く市場の波乱。大引けで前日と大差なく終わった日でも、日中、ザラバでの値動きが激しい。トレーダーたちが、翌日の相場も読み切れず、日ばかりの売買に徹する傾向が顕著だ。

そもそも、年初の2016年経済予測では、「米国経済、相対的に堅調」がコンセンサスであった。そこから、米利上げ回数予測も2回~4回程度が多かった。外為市場ではドル高がベースシナリオとして見込まれた。

ところが、年初からの米マクロ経済諸指標不振が続き、俄かに、2016年米経済リセッション説が浮上した。米経済回復=金融正常化の前提に疑念が生じるや、民間予測の米利上げ回数も1~2回程度の見方が増えた。外為市場では、ドル買いポジションの巻き戻しや新規のドル売りが増え、直近ではドル全面安の様相となった。

その結果、FRB利上げ決断は誤りであった、との評価が拡散している。日銀マイナス金利も、導入後、ドル高・円安・株高のシナリオが数日で覆された。

日米金融当局の相次ぐ誤算は、中銀依存相場を、根源から揺さぶる。

米債券市場では、10年債利回りが1.8%台まで急落。原油安の同時進行で、インフレ期待は益々低下するばかりだ。日本国債利回りも10年債までマイナスに転じる可能性が強まっている。日独国債の利回りに比べれば、米国債の1.8%台は、まだ下げ余地がある。

それでも、FRBは年間4回の利上げ回数を変えないのか。既に、フィッシャー副議長やダドリー・NY連銀副総裁は、講演で、12月の利上げ決定時から、市場の波乱が無視できないことを示唆している。今週、注目のイエレン議会証言でも、中国経済も注視などの発言が飛び出せば、利上げ政策方針揺らぐとの見方が強まり、ドル安・円高が増幅されかねない。

1月米雇用統計も、新規雇用数は15万人と減少したが、失業率は4.9%に低下し、賃金上昇率も年率2.5%に上昇した。評価は割れたが、株価は急落。特にナスダック・ハイテク株の下げがきつい。分からないときは、とにかく、ポートフォリオのリスク量を減らすために、売るとの発想が市場を支配する。円が逃避通貨として買われやすい市場環境である。特に、もう一つの有力逃避通貨とされてきた米ドルが下落基調なので、円へ資金流入が集中する可能性もある。

その結果、日銀マイナス金利政策が、円高デフレ脱却どころか、更なる円高を誘発することになった。

日銀マイナス金利は、客観的にみれば、よく練られた案である。金利をマイナスの次元にまで引き下げるので、今後、再利下げにETF購入枠拡大など、様々なポリシーミックスの選択肢が生じる。金融政策の手詰まり感を払拭できるはずであった。しかし、海外要因の変動には弱かった。当然、日銀の現場では、外的リスクも考慮されていただろうが、あえて目をつぶらざるを得なかったところに、金融政策の限界が透ける。

更に、黒田日銀総裁と市場のコミュニケーションにも、大きな禍根を残した。8日前に国会の場で否定した政策を実行した事実は重い。「日銀総裁は(公定歩合などで)嘘をつくことが許される。」との金融界の常識はもはや過去のものだ。フォワード・ガイダンスに見られるごとく、金融政策の方向性を予め市場に明示して、波乱を最小限に抑えることが求められる時代なのだ。

今後は、FRBと日銀が、誤算によるダメージを、どのような形で修復してゆくか、が焦点になる。

中銀頼みと揶揄されようと、財政政策は限界、成長戦略には時間がかかるとなれば、金融政策で時間を稼ぐ必要性は高まるいっぽうであろう。

なお、米雇用統計後の金プラチナ価格には著変なし。

基本的には上昇トレンド。

それから、今日発売の週刊エコノミスト「マイナス金利特集号」の記事に私のコメントも。ここで全文読めるよ。↓

http://www.weekly-economist.com/2016/02/16/特集-マイナス金利-2016年2月16日号/

それから、同号の「マイナス金利、プロの視点、私はこう評価する」でもコメント。

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そして、今日の写真は、我が家の庭に咲いた梅。

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開花とともに、私の鼻が花粉感知!!

ヤレヤレ、またアレグラのお世話になる季節になったか。。。

2016年