豊島逸夫の手帖

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円高の夏、日銀、FRB、トランプ

2016年8月1日


「サンキュー、ミスタークロダ。」
ほぼヘッジファンドの想定通りの展開に、彼らからは、日銀に感謝の声が聞こえてくる。
黒田総裁は否定するが、切り札小出しの追加緩和は、海外勢には金融政策の限界露呈と映る。
彼らは、仮に「ゼロ回答」なら、一気に100円狙い。追加緩和あってもなくても102円台は想定内であった。
そして、回答は「ETF購入枠ほぼ倍増」だけ。それを聞いたときの、彼らの反応は「ほぼホールド」だった。追加緩和でホールドとは、現状維持を意味する。
更に、黒田総裁が記者会見では、次回の会合で再吟味と語ったが、期待感は薄く、寧ろ時間稼ぎと見られている。
100円は突破できるとの読みに変わりはない。特に8月は商いが薄いので、動かしやすい地合いだ。


いっぽう、FRBの金融政策も、円買いには追い風となっている。
金曜日NY時間に入って発表された、米4~6月期GDP成長率は、1.2%と事前予測を大幅に下回るサプライズ。利上げの「執行猶予」は更に延びそうで、ドル売りが加速した。
円高モメンタムが更に強まりつつある。
これは、マイナスリターンにもがく多くのヘッジファンドにとっては、干天の慈雨。
8月に入っても、今年ばかりは夏季休暇返上覚悟で、ドル売り、円買いトレードに賭ける。英EU離脱時には、ポンド売りでかなり儲かったので、二匹目のどじょうというわけか。


更に、米年金マネーにも、このヘッジファンド・セクターへの運用比率を高めることで円高の恩恵を享受しようとの動きが見られる。
GPIF同様に、米国の年金運用も、厳しい状況が続いている。例えば、米最大の年金基金カルパースは、6月30日までの会計年度のリターンが目標とする7.5%を大幅に下回る0.6%にとどまった。他の年金も大苦戦である。そこで代替投資(オルタナティブセクター)の中で、一時はフィーが高過ぎるとして解約したヘッジファンドへの投資を再開せざるをえないところまで追い込まれている。
もはや、まともにイールドの追求だけで年金の運用は成り立たない。保守的な年金も、なりふりかまわぬ姿勢だ。トランプ大統領になったら、ドル安・円高が更に進行すると読み、トランプヘッジの円買いを唱える向きもある。


まずは、今週発表の雇用統計。そして、8月25~27日ジャクソンホール中央銀行会議でのイエレン講演。8月といえば、昨年の人民元切り下げの記憶も生々しく残る。オリンピック期間中も、ドル円相場からは目が離せない。

2016年