豊島逸夫の手帖

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金と円が暴騰、プラチナも急騰

2016年2月12日



世界の市場大波乱のなかで、金は1240ドル。プラチナは950ドルまで急騰。但し、円高で相殺も大きい。
いずれにせよ、世界的に金買いが拡散していることはたしか。
その背景を以下に分かりやすく書いた。このbig picture俯瞰図が見えないと、今、金が上がっている理由は理解できない。↓


いま、投資家たちが「不信症」という心の病を患っている。慢性の病なのだが、これまでは、中央銀行の「緩和」という妙薬が効いた。ところが、最近になって、その薬を処方する主治医=中央銀行の長(おさ)が、投薬量を間違えているのではないか、と患者たちが思い始めた。イエレン議長が議会証言で、「追加利上げ」について慎重な治療方針を発表して、「緩和薬」の点滴は外さないことを強調しても、患者は信じることができない。価格変動が心臓に悪い株は売られ、癒し効果があるとされる国債や円が買われた。この精神安定剤を求める患者は日に日に急増して、「安心の価格」は連日高まり、「マイナス金利」というプレミアムを払っても購入希望者が後を絶たない。
この心の病は強い伝染性がある。インターネットを通じて、感染するのだ。但し、中国だけは、インターネットを規制してきた。それでも限界がある。春節中の中国人観光客で溢れる繁華街をウォッチしていると、しきりにスマホで世界の株価情報をチェックする光景が見られた。彼らも、中国人民銀行の緩和剤にすがる気持ちなのだが、今週は上海市場休場のため、株式売買が出来ない。彼らが帰国後、来週、どのような行動をとるのか気になるところだ。


いっぽう、米国では、マイナス金利という劇薬を、ドクター・イエレンも「検討対象から外したわけではない。」と発言した。そこで、患者は益々不安になる。日本での導入例を「失敗」と見て、怯えているのだ。この劇薬の副作用を最も強く受ける銀行の株価も、昨日、欧米で相次ぎ「危機的水準」まで急落している。
更に、この劇薬処方が議会証言の場で議論されたことで、患者は疑心暗鬼を強めている。それほどに、米国経済の病状が悪化しているのか、との思いだ。

では、金融緩和剤以外に、妙薬はないのだろうか。
病気を根治するためには、病巣を取り除く「構造改革」という手術が最も有効なのだが、強い痛みを伴うので、尻込みする患者が多い。
財政政策というカンフル剤もあるのだが、既に、過剰投与が甚だしい。
為替レートを使って、痛みを隣の患者に押し付け、自らの痛みを軽くする手段もあるが、これはこれで、患者同士のいさかいを招く。
TPPという理論的には効果ありとされる手法もあるのだが、入院患者全員の合意が必要だ。
なお、この心の病はウイルス性だ。そのウイルスは「債務」と特定されている。そこで、「誰の債務でもない」というふれ込みの「金」という高貴薬も売れている。発行体がないから、債務破綻もないという特徴がある。しかし、絶対的な量が限られている。そもそも金は金利を生まない不毛の資産なのだが、マイナス金利の時代になると、少なくとも金利を払う必要はないので買われ始めている。


以上の状況を俯瞰すると、性善説に基づく信用経済の限界があらわになってきているようだ。既にリーマンショックの苦い経験から、性悪説に基づきリスク管理が強化されてきた。人間は間違いを犯すなら、コンピューターに任せるという取引手法も普及してきた。要は、性善説と性悪説の中間におそらく「熱くもなく冷たくもない」適温経済があるのだろう。ただ、言うは易し、行うは難し。そんなユートピアが、簡単に見つかるはずもない。物価も金利も上がらないという低体温症が慢性化するなかで、量的緩和などの非伝統的な政策手段が試みられてきた。しかし、その合併症、そして、出口戦略という後遺症予防において、未だ成功例が確立されていない。
その間、患者の心拍数を示すボラティリティー(価格変動)だけが上がっている。
まずは為替介入でも資本規制でも、「なんでもやる」ことで、足元の急性発作を抑えることが喫緊の課題だ。そのうえで、各国の主治医(中央銀行総裁)及び病院長(大統領。総理大臣、含む選挙中)が集まって、世界標準の治療方針を患者に示すことが求められている。次のG20主催国が中国ゆえ、国際協調路線に取りこむ環境にあることが救いか。それでも制御不能なのは、中東・ロシア・米国の我慢比べになっている原油価格であろう。


そして、昨日、休日に急遽、日経電子版に書いた原稿がコチラ↓


ヘッジファンド円買い攻勢 110円台


春節、東京市場休場で取引の薄い日を狙い、ヘッジファンドが円買い攻勢を仕掛けてきた。更に、欧州時間に入っても円買いモメンタム(勢い)に歯止めがかからない。

キッカケは、10日のイエレンFRB議長議会証言。
特に中国・人民元リスクに具体的に言及しつつ、外部要因について長めに語ったことで、3月利上げ観測が、ほぼ消えた。
最近のフィッシャー副議長、ダドリーNY連銀総裁の、利上げに慎重なニュアンスを追認するかたちとなっている。


外為市場では、米利上げ=ドル高の見方が崩れ、特にヘッジファンドを中心に、新たな円買いポジションを増やす動きが加速している。更に、トレンド・フォローで超短期売買を行うCTA(コモディティー・トレーディング・アドバイザー)が、円高のモメンタム(勢い)に乗ってきた。
14年10月のいわゆるハロウィーン緩和のときに、110円近傍から一気に115円前後まで跳ねているので、そこが真空地帯になっていた。今回は、その空白の価格帯を「埋めに来る」動きだ。
なお、現在の円高は二層構造になっている。
まず、米国経済景気後退懸念により米利上げ観測も後退して、ドル金利が低下。マイナス金利導入の円との金利差が拡大せず縮小していること。
次に、欧州銀行不安、原油安、中国経済不安のトリプル懸念が共振して、比較的安全とされる円にマネーが逃避していること。
その結果、日銀マイナス金利導入による円安効果も吹っ飛んだ。
円相場115円、日経平均1万6000円は、アベノミクス防衛線であったが、それが崩れてしまった。
明日の日経平均は1万5000円攻防となる可能性がある。


更に、春節明けの来週、上海市場での展開も気になることころだ。
激動の1週間、春節で休場の上海株式市場には、潜在的売りエネルギーが充満していると見られる。中国人民銀行が人民元基準値をどの水準に設定してくるかも注目される。
アベノミクス相場はまさに正念場を迎えた。


そして、2月24日午前中に大手町サンケイプラザで産経新聞主催の介護イベントで「どうなる、中国バブル、マイナス金利」と題して講演。↓なんと、橋幸夫(といっても若い人は知らないだろね。笑)の前座。プロゴルファー中嶋プロも講演。


http://www.sankeisquare.com/event/value_aging/index.html

2016年