豊島逸夫の手帖

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市場の懸念はBrexitからFrexitへ

2016年7月1日

Brexitショックを消化しつつ、一定の安定感を取り戻したマーケット。しかし、市場は先読みする。英国が引き金を引いた「離脱ドミノ」懸念。Brexitの次はどこか。

そこで、最も切迫感のあるリスクを抱える国がフランスであろう。

来年5月の大統領選が、事実上の英国型国民投票と化す可能性があるからだ。

既に、オランド大統領の支持率は10%台前半にまで急落中。いっぽう、予想される対抗馬の国民戦線党首ルペン氏は20%以上の支持を得ている。フランス国民の不満がうっ積しているのだ。

解雇条件緩和などを盛り込む労働法改正に対し、労働者は激しく抵抗している。清掃関係の労働者がストライキしたときには、パリの街角がゴミの山となり、異臭が漂った。自然も味方せず、異常気象による集中豪雨がパリを直撃。セーヌ河の水量が通常より6メートル以上上がり、洪水が発生。一部の地下鉄駅は水没した。

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「それもこれも、そもそもEUのせい。」理不尽なまでのEU悲観論は高まるばかり。ピュー・リサーチセンターによれば、フランス人の66%がEUは経済的に失敗と考えている。反動で、移民排斥への共感度は高まる。「選挙で選ばれていないEU本部の人たちにより、構造改革を押し付けられた。」との反感も強まる。

しかし、ドイツとともにEUを礎として支える立場のオランド大統領は、公式の場で、メルケル首相と並び、EU結束を訴える。

そもそも、フランス人には、独一強、独主導への警戒感が根強い。その国の首相と「EUがんばろう。」とスクラムを組むオランド大統領への支持率下落は加速する。「EUより我が国の内情を心配せよ。」との批判は高まる。

フランス国民の間には、英国型国民投票を望む意見も急浮上する。

英国のEU離脱に関しても、「わがままを言う英国が出てゆくのは歓迎。」との考えも根強い。「英国がEUを離脱するなら、この際、我が国も独立性を取り戻そう。」との発想も芽生える。

そもそも、ドゴール大統領が1963年に英国のEEC加盟申請を拒否した歴史もある。フランスは英国をライバル視する傾向が強い。

なお、ドイツとフランスの間にも不協和音が絶えない。英国EU離脱交渉に関しても、オランド大統領は、「ただちに出てゆけ。」といわんばかり。対して、メルケル首相側には、経済関係が密な英国に、一定の冷却期間を与え、出来ることなら考え直してほしい、との計算が透ける。EUから最大の経済的恩恵を受けているのはドイツなのだ。しかし、米国覇権への対抗、中露に対する団結としての欧州協調路線は崩せないから、英国EU離脱交渉には強い態度を示さねばならない。

独仏は「仮面夫婦」を演じる宿命にあるのだろう。

英国EU「離脱」は、しばしば「離婚」に例えられる。その発想の延長線上には、独仏仮面夫婦の「離婚」も視野に入る。

それは、フランス大統領選挙で、反EU派候補が勝利するときだ。

なお、実は、オランド大統領にも勝算がないわけではない。

フランス国民が、英国内に拡散するRegrexitの惨状を見て、考え直すシナリオだ。大統領選挙戦ともなれば「英EU離脱に軽軽に票を投じた人たちの後悔を教訓とせよ。」と訴えるであろう。

市場が懸念する「離脱ドミノ」。まずはFrexitリスクから目が離せない。

明日朝9時半からABC朝日放送90分情報番組「正義のミカタ」に出ます。

番組後半で、オランド大統領、EU、英国離脱など。

東海地区はメ~テレ、北陸地区でも見られます。


2016年