豊島逸夫の手帖

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米討論会、勝者は中国か

2016年10月21日

米大統領選候補者討論会は3回目も中傷の応酬が目立つ結果に終わった後、北京では、フィリピン・ドゥテルテ大統領は、米国からの決別宣言を語った。ホスト役の習近平国家主席にしてみれば「漁夫の利」「してやったり」の高笑いであろうか。

市場にとっても、米討論会がクリントン氏有利を固める結果は想定内のことだが、比大統領がここまで明確に、親中、嫌米を表明することは、サプライズであった。Separation(別離)という比大統領が使った表現は、「離婚まで至らずとも別居」を連想させる。南シナ海領土問題が新たな局面を迎えるキッカケになりかねず、金市場でも長期的地政学的要因としての注目度が高まる可能性を秘める。

アジア時間では同日の出来事ゆえ、恣意的なタイミング設定を深読みする見方も出てくる。米国の政治的空白期を意識した動きであることは明白であろう。

市場で、トランプ氏の劣勢は、最悪の事態は回避の確率が高まる「安堵材料」と受け止められている。しかし、先読みする欧米機関投資家たちの注目は、米大統領候補の勝ち負けから、トランプ氏が残すであろう負のレガシー(遺産)にシフトしてゆきそうだ。


トランプ氏への支持は、米国がこれまで触れられたくなかった国民の本音や国内の亀裂を露わにした。その実態を、トランプ氏の過激発言で思い知らされると、東南アジアでの米国への信認も揺らいでくる。

しかも、米国の金融政策が、量的緩和に向かえば、過剰流動性が中国にも東南アジアにも流入し、利上げに転換すれば、その巨額マネーが流出することで、自国経済が大きく振られる。中国は政治的・軍事的脅威だが、米国の金融バズーカも脅威なのだ。イエレン氏の一言が、日本では株式投資家やミセスワタナベを直撃するが、アジアでは、海外資本撤退にともなう失業など直接的に庶民生活を揺らす。人民元安にも不安を感じるが、市場とのコミュニケーションに四苦八苦するFRBへの不信感もぬぐえないのだ。中国の領土的野心はミエミエだが、出てゆくドルより、入ってくる人民元にすがらざるを得ない国民感情も透ける。

ドゥテルテ大統領は、「海の魚だけで食ってはゆけない。」と語る。

カネか領土か。麻薬撲滅で選ばれた大統領は、比国民に悩ましい選択を残した。

http://moneykit.net/MakiOGAWA/


なお、第3回米討論会については、尾河眞樹さんが、上記に10月21日付けでまとめているのが分かりやすいから参照されたい。

2016年